絶版車ホンダ バモスの魅力とは
1970年代初頭にバモスホンダという車が存在した。
それはトロ舟(モルタルをこねる時などに使う四角い大きなタライのようなもの)に車輪を付けてベンチを載せ、片端についたてを立ててステアリングを付けただけのような外観の、非常に個性的なスタイルの車だった。
ついたてのようなフロントパネルの外側にはスペアタイヤが取り付けられていて、メカニズム的にはあくまで雰囲気に留まるが、オフロード向きのような雰囲気も漂っていた。
見ただけで想像力を掻き立てられるようなワクワクするような外観は、当時子供だった私にも非常に魅了的に映り、鮮明に記憶にも残っている。
遊び心が大いにくすぐられるような雰囲気のある車ではあったのだが、あまりに個性的過ぎて一般受けしなかったのか、販売期間は70年から73年の3年余りで、生産台数もわずか2500台だったそうだ。
現存数も少なく、いわゆる「珍車」に分類されるような車だ。
このスタイルで現在の安全基準に適合させることなど到底無理とは思うが、今だったら大人気間違いなし(?)となりそうなので残念だ。
しかし、今回はこのバモスホンダの話ではない。
1999年から2019年に販売が終了するまでの20年弱の間存在した軽ワンボックスワゴンのホンダ バモスについての話だ。
一見あまり特徴のない軽ワンボックスに見えるホンダ バモスだが、実はこちらもかなり個性的な車で、この車ならではの魅力も多々ある。
そして私は奇遇にもバモスの新車販売が終了した2019年の1月に、2009年製のバモスをたまたま譲り受け、現在も愛用している1ユーザーでもある。
2018年まで製造されていた車だから、まだまだ状態の良い中古車を手に入れることも難しくない。
魅力たっぷりのこの車の入手を検討する際の一助になればと、本稿では魅力はもちろんのこと、ユーザーだから知り得た欠点などもご紹介したいと思う。
概要
ホンダ バモスは、1999年に商用車のアクティバンがフルモデルチェンジした際に、派生の乗用車バージョンとして誕生した軽ワンボックスワゴンだ。
アクティとは兄弟だが、アクティ◯◯などではなく全く別の名前が与えられたわけだ。
2代目バモスとも呼ばれるが、先代がバモスホンダだったのに対し、こちらはホンダ バモスなので、正確には名称も少し異なる。
そして実質的にもバモスホンダの復活と言うよりは、フルモデルチェンジ前まで存在していたアクティの豪華版であるストリート(下画像)の後継機種のような存在だ。
2輪だったスズキのハスラー(仮面ライダーの2代目サイクロン号のベース車両はハスラーだった)が4輪になって復活した程ではないにしろ、バモスもかなり大きく様変わりしての復活だ。
また、バモスホンダが短命だったのに対し、ホンダ バモスは1999年6月に誕生し、2018年5月に生産終了(販売終了は翌年2019年の1月)されるまでのおよそ19年間もの長きに渡り一度もフルモデルチェンジを受けることなく作り続けられた、一代限りの長寿モデルでもある。
しかし、フルモデルチェンジが一度もなかったとは言え、度々マイナーチェンジはあり、グレードによる違いや年式による違いを含めるとかなりのバリエーションが存在することになる。
こういったことは購入を検討する際にはしっかり調べたほうが良いと思うが、ネットで調べれば簡単にわかることだから、ここで私がそうしたことを深く掘り下げて説明してもあまり意味がない。
そんなことより、ここから先は実際に接しているからこそわかることや体現したことなどを中心に述べたいと思う。
特異なエンジンレイアウト
軽ワンボックスに興味のない人が見たら、バモス/アクティもエブリィやハイゼットと大差なく見えると思う。と言うより、全く見分けのついていない人も少なくなさそうだ。
そして、このどれもがワンボックスではあるけど、ハイエースやキャラバンのように前輪がフロントシートの下にあるのではなく、前輪がフロントシートより前にあり、後輪駆動(4WDもあるがベースが後輪駆動)であるところまではよく似ている。
しかし、一見似ていても非常に大きく異なる点がある。それはエンジンレイアウトだ。
エブリィ・ハイゼット・キャリィなどはエンジンがフロントシートの下にある。これは国産ワンボックスカーの最もスタンダードなレイアウトだ。生産中止になってしまった三菱ミニキャブ(軽ワンボックス/トラック)も同様だった。
しかし、バモス/アクティと、これまた生産終了してしまったスバルサンバーは違った。
バモス/アクティは、後輪の少し前にエンジンを積むミッドシップ リアドライブ(以下MR)レイアウトで、サンバーは後輪より後ろにエンジンのあるリアエンジン リアドライブ(RR)レイアウトだったのだ。
この特徴的なエンジンレイアウトから、軽トラのアクティが農道のフェラーリ、軽トラのサンバー(ハイゼットのOEMではなくスバル製だった頃の)は農道のポルシェなどと呼ばれたりもする。
そして実際に乗ってみてもこのエンジンレイアウトの違いで運転フィーリングや居住性が大きく異なることが体現できる。
室内が比較的静かで快適
エンジンがフロントシートの下ではなく後輪近くにあるメリットは、エンジンからの距離が遠いため、少なくとも運転席近辺は比較的静かで、エンジンの熱で室内が暑くなりにくいことだ。
これらは誰にもわかりやすい大きなメリットだ。
私はバモス以外の軽ワンボックスはレンタカーのエブリィとミニキャブを運転したことがある程度だが、軽トラはミニキャブとサンバーを所有した経験がある。
いずれの場合も音と熱に関してはバモスとサンバーが明白に快適だった。
そして、2.5Lのガソリンエンジンで5ATのキャラバンはエンジンが低回転で静かだから尻の下にエンジンがあってもあまり気になることもないが、キャラバンの倍くらいのエンジン回転数で走っている3ATのバモスのエンジンが尻の下にあったら、さぞかしうるさくて暑苦しいことも容易に想像ができる。
運転が楽しい
MRのメリットはこういった快適性だけではない。異名の通り、これは最高の運動性能を求めて作られたフェラーリやホンダNSXなどのスポーツカーと同じレイアアウトなのだ。
現在の車は、圧倒的にFF(フロントエンジン フロントドライブ)かFR(フロントエンジン リアドライブ)が多い。4WDもこのどちらかがベースになっている。
重いエンジンが前に積まれていたら当然フロントヘビーになりやすい。
そして一般論として、フロントヘビーはアンダーステア(舵角より曲がらずに円弧の外側に膨らむ)となりやすい。
しかし、弱アンダーステア気味が一般的には運転しやすいため、多くの車は弱アンダーステアになるようにセッティングされている。
また、重いものが前後の中心近くに集まれば、アンダーステアの傾向は弱まり、オーバーステア(舵角以上に頭が円弧の中心に向かう)にもならず、舵角通りに車が進む傾向が高まる。そして、ハンドリングも軽くなる。
要するに意のままに操りやすくなる。これがスポーツカーにMRが採択される理由だ。
そしてバモスはもちろんスポーツカーではないが、カーブに侵入した際に膨らみにくく、ハンドルを切った分だけ素直に曲がってくれるMRらしい感覚を体感できる。
そして曲がり終わった後も勝手にステアリングが戻ってくれると言うよりは、自分で直進方向に戻すような感覚も味わうことになる。
ペダル操作などを意識することなく、手で操作したままに素直に進む方向が決まる感じが心地良い車だ。
はっきり言ってノンターボのバモスはパワーがあるわけではなく、シートにホールド感など全くないが、登り急勾配でもなければ、バモスとなら流行りのぶよっとしたSUVなどよりコーナーを速く軽快に抜けられる(もちろんルールを守った安全運転で)自信がある。
軽バンと侮れない運転の楽しさをワインディングロードで味わえる車だと思う。
エンジン・ミッション・駆動方式
バモスの駆動方式は、後輪駆動とビスカスカップリングを使ったフルタイム4WDの2種類がある。
そしてどちらもミッドシップではあるが、なんとトランスミッションの違い、エンジンの形式やターボの有無などによって、バモスにはエンジンが横置きのタイプと縦置きのタイプがあるのだ。同じ形式の車でエンジンレイアウトがこうも異なるのは大変珍しいことだ。
スタート時の3ATやNAの5MTは横置きレイアウトで、後から追加した仕様が縦置きになっている。
その理由は公表されてるわけではないが、スペースの都合などでそうなったようだ。
元は横置きレイアウトだから運動性能的にはこの車は横置きの方が本当は正解なのかもしれないが、そんなに気にすることでもないとは思う。
しかし、マニアックな人にとっては購入を検討する際の要確認ポイントにはなると思う。
私のは45ps後輪駆動3ATだが、高速道路を走るとオートバイのエンジンのような回転数になる。
トラクションも良いMRだから、個人的には4WDの必要性は感じないが、高速走行には4ATやターボははっきり言って羨ましい。
ないとは思うけど、もしバモスを買い替えることがあったら、ターボでなくても4ATを選ぶと思う。
燃費はエンジン形式・駆動方式・トランンスミッションの違いでもちろん異なり、個体差や運転の仕方でも結構違ってくるようでもあるが、私のは概ね15km~16km/L程度だ。
3ATだから高速道路を走るより、信号の少ない一般道を走り続けるときが一番燃費が良くなるようだ。ガソリンタンクは30Lでキャラバンの半分だが、燃料の消費量も大体半分だ。