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電動キックボードSWALLOW ZERO9は車旅に最適な相棒 -電動キックボード基礎知識編-

旅先で街を散策することが好きで、車に積んで行って身軽に移動できる足となる何か良い道具はないかと前々から考えていた。
個人的な話を持ち出して恐縮だが、歩くことが好きだったのに長距離長時間歩くことが物理的に困難になってしまった事情もあり、最近それをより真剣に考えるようになっていた。
候補に上がっていたのは折り畳み電動アシスト自転車と近頃何かと話題に上がることの多い電動キックボードなのだが、電動キックボードは良さそうだけど、電動アシスト自転車より未知な部分が多い。

そんな折、SWALLOW ZERO9という電動キックボードを試乗する機会に恵まれた。
それも「ちょっと乗ってみた」のような試乗ではなく、10日間以上お借りすることができた(なんとも太っ腹なメーカーさんに感謝)ため、実際に車に積んでさまざまな場所やシチュエーションに持ち出し、性能や実用性についてしっかり検証することができた。
その結果を先に言ってしまうと、「『車+電動キックボード』は大変合理的で、特に車中泊やキャンピングカーの旅との相性は抜群で、色々な可能性を秘めている。」
なのだが、私もそうだったように、何をどういった基準で選んだら良いものやらわからない人は多いと思う。

正直に言えば、使ってみるまで本当に実用に耐え得るものなのかさえわからない状態だったのだが、SWALLOW ZERO9を実際に使用してみたことで、電動キックボードに求めるべき性能、選び方や適した使い方などについて指標となるようなものが見えてきた。
そこで、当初はZERO9を使った実例的なレポートをするつもりでいたのだが、その前に本稿ではこの体験を基に得た本当に使える電動キックボードに関しての基礎知識を、弱点なども含めてまずは解説したいと思う。
実用品となる電動キックボードとは?

現在日本の公道を走行できる電動キックボードは、一部の特例を除き、原付(原動機付自転車)として登録されたものに限られる。
50ccのスクーターやバイクと同じ扱い(125cc以下の原付二種登録のものもあるが原付一種が主流)となるため、免許が必要でヘルメットの着用義務があり、走行できるのは車道のみ。歩道は走行できない。
最初に挙げた一部の特例とは小型特殊自動車登録の電動キックボードのことで、小型特殊自動車登録ができるのは一部の都市で現在実施されている公道走行実証実験中のシェアリング事業のみに限られている。
現状ではパーソナルユースの電動キックボードを小型特殊自動車登録してノーヘルで乗れるわけではない。
そして、今のところ歩道を電動キックボードで合法的に走行する術は全くない。
ナンバープレートのない電動キックボードでの公道の走行、車道の逆走などはもちろん違法行為だが、ナンバーの有無に関わらず歩道の走行も完全に違法行為だ。
これら何れに関しても「ちょこっとくらいええやん。」なんてことは一切ない。
要するに、例えばサーキット内での移動のような特殊な用途を除き、「個人が実用品(公道の移動手段)として所有できる電動キックボードは、原付のナンバーがついたやつだけ。」これがまずは一番に抑えておくべきポイントだ。

原付登録できる電動キックボードにはヘッドライトやウィンカー、その他諸々保安基準をクリアする装備が備わっている。
SWALLOW ZERO9はもちろんこれに該当する合法的な移動手段として使える乗り物だ。
パワーは意外と重要

原付一種は動力がエンジンの場合は排気量が50cc以下であることは車やバイクの免許を持っている人ならご存知の通りだが、電動モーターのバイクはどうやって区分されているのかと言えば、モーターの発生する定格出力で区分されている。
そして原付一種と区分されるのは定格出力0.6kW(600W)以下のモーターのバイクだ。
SWALLOW ZERO9の定格出力は600W。
原付一種として登録できる最大のパワーを備えているということだ。
その他の仕様について詳しいことはメーカーのウェブサイトを見ていただくこととして、最高速度は40km/h(原付一種の法定最高速度は30km/h)と仕様書に記載されている。
https://swallow-scooter.com/products/zero9

ZERO9に実際に乗ってみて感じた体感的な性能についてだが、軽く地面を蹴ってトリガー状のスロットルを引けば、出足でもたつくことなど全くなく、スーッと気持ち良い加速感が味わえる。
少なくとも私の古いカブより出足はずっと速い。
スタートで軽く地面を蹴る理由は、安全対策上、静止状態でスロットルを引いても走り出さない仕組みになっているからだ。
本当に軽く蹴るだけでスタートできるので、脚力の心配などは無用だ。
そして、必要十分なスピードも出る。
平坦地であれば速度に関しても全く性能不足など感じない。
ここで、「原付の法定最高速度が30km/hなのだから、それ以上スピードの出る性能は必要か?」といった疑問もよぎる。
しかし、正直言ってもの凄くパワフルとかトルクフルと感じる走行性能でもない。
それは上り坂で実感する。
少し斜度のきつい上り坂では、最高速度40km/hを誇るZERO9でさえ30km/hには到底達しなくなってしまうような場面も少なくなかった。

実際のところ平均したら30km/h以下で走行している時の方が多かったので、全くこれで十分と言えば十分ではあったのだが、最高速度が40km/hの性能があってもこれなのだから、これより力のないモーターや最高速度の低い電動キックボードではまともに登れない坂だらけになってしまわないだろうかといった疑問も湧いてきた。
登れない坂だらけでは逆にお荷物となってしまい、本末転倒だ。
そして、あまり力があり過ぎてもそれをコントロールすることができなければ危険だが、逆に交通量の多いようなところではさっと加速できなかったり、速度が遅過ぎても危険だ。
その点、ZERO9は加速性も良く機敏に動けたから街中でも特に怖い思いなどはしなかった(慣れは必要)。
SWALLOW ZERO9の価格は税込で¥119,800~。安くはないが、ちょっとした自転車と比較しても決して高くもない。
もっと安価な電動キックボードもあるにはあるが、安くても役に立たなければ全く意味がない。
買うなら、ZERO9のように性能に余裕のあるしっかりしたものを選ばなければ大失敗も免れないことも想像がついてしまった。
他の電動キックボードと乗り比べたわけではなく、数字だけで比較できないこともあるとは思うのだが、欲張るわけではなく、性能には絶対妥協しないほうが良いと思った。
これが体感と数字を照らし合わせた上で浮かんだ感想だ。

この坂は車で登ってもエンジンが唸り声を上げてギアがローか2ndより上がらないような急坂。
さすがに途中で止まりそうになったが、途中数回地面を蹴りながら進んだらなんとかクリア。
この「地面を蹴って補う」は電動キックボードならではの技かもしれない。
しかし、例えばサンフランシスコのように極端な急坂の多い街に向いた乗り物ではなさそうなことも実感した。
乗り心地・走破性
次に乗り心地を大きく左右するホイール・タイヤ・サス、実際の乗り心地や走破性などについて。

これはZERO9の前輪。
前輪にはディスクブレーキが装備されている。
装着されているホイールの径は9インチ(タイヤには8 1/2 x 2と書いてある)。
人力のキックボードはソリッドのタイヤが一般的だが、ZERO9に標準装備のタイヤは幅2インチのチューブ式空気入りタイヤだ。
他にオプションで中空構造のパンクレスタイヤも選べる。
パンクはしないがこっちの方が柔らかいようなので、体重の重い私には合わなさそうだ。
フロントフォークにはスプリングのサスペンション(左の赤い蛇腹部分)が付き、空気入りのタイヤと相まって段差や路面の凸凹からの衝撃を吸収。
もちろん原付のスクーター並みとは行かないが、ソリッドタイヤの人力のキックボードよりはスクーター寄りのフィーリングだ。

手前は比較的ホイール径の大きなモーターのない人力キックボード(大人用)。
ホイールもタイヤも全然違う。
路上では華奢に見えるSWALLOW ZERO9もこうして並べるとなかなかに立派なものに見える。

試乗車の後輪は、よりグリップもクッション性も高いオプションの3インチ幅のワイドタイヤが装着されていた。
後輪はディスクではなくドラムブレーキだが、特に制動力の不足を感じるようなことなどなかった。

ブレーキドラムの反対側にあるのが駆動用のモーター。

後ろはエアショックを装備。
フワフワし過ぎるようなことはないが、これによってやはり人力のキックボードにはない乗り心地が味わえる。
乗り心地のような感覚的なことは人によって大きく意見の分かれるところだが、9インチしかないホイールの乗り物にしては乗り心地も良く、安定性も操縦性も高いと私は感じ、むしろ思っていた以上の結果であった。
舗装の荒れた路面、舗装されていない路面や芝生の上なども走行してみたが、無茶なスピードなど出さず、大きな凸凹などないか路面を確認しながら走行すれば全く問題はなかった。
これなら余程の凸凹でなければキャンプ場内での移動にもキャンプ場から出かける足としても十分使えそうだ。

個人的な見解ではあるが、折り畳みの自転車と比較した場合に電動キックボードに大きなアドバンテージを感じるのは、漕ぐか漕がないかより、ホイールが小さいおかげで畳んだ時の高さが低く幅が狭くなることだ。
これについては次回の記事の車載性についての説明でより詳しく解説したいと思うが、コンパクトに畳めて身軽さが身上の電動キックボードに、乗り心地や走破性に関してあまり多くを求めるのは少々お門違いなのではと私は思う。

私は「走行性能や乗り心地を最優先してホイールを大きくし、コンパクトに畳めなくなるくらいなら電動バイクや電動アシスト自転車に乗れば?」と考えるが、いかがだろうか?
次のページ⇨ 電動キックボードに、向き不向きな道を解説。
電動キックボードに向いた道、走りやすい道、走りにくい道
バイクは路側帯の走行は禁止だ。
また、高速道路など自動車専用道の路肩は四輪の車もバイクも走行禁止だが、そもそも自動車専用道を走行できない原付にとってこれは関係のない話だ。

歩道のないこの道の白線の外側は路側帯となり、遡行できない。
また、一般道でも四輪の車は路肩の走行は禁止だが、バイクは一般道なら路肩走行は通常禁止ではない。
ここがポイントだ。

車線の左側、歩道との間に白線が引かれ、路肩が広い道路は、路上駐車の車が少なければ電動キックボードは安心して走行できる。
交通量が多くても整備された街中の道は意外にも走りやすいのである。

道幅が狭くても交通量の少ない郊外や田舎の道も電動キックボードには向いている。
むしろ道幅が狭いと車の速度も普通は遅い(中には無茶なスピードを出す輩もいるが)から、安心して走行できる。

徒歩や自転車の場合は、上り坂で道を間違えたりすると無駄な体力を消耗して残念な気持ちになってしまうが、電動キックボードならそれも苦にならないから、綿密に計画など立てずに適当に目的地を目指すのが面白い。

思わぬ発見があったりして、むしろそんな走り方の方が楽しかったりする。

以前友人の知人の十勝の網元の家にお邪魔した際に、集落が広々としていて北米の漁村のようだとビックリしたことがあったが、そんなのは例外中の例外。
日本の漁村は大抵どこに行っても道が非常に狭い。
無茶苦茶狭い。
迂闊に集落に侵入しようものなら曲がれない道に入り込んでしまうなど、とんでもないことになってしまうようなこともある。
海岸に出たくても、知らない漁村の集落にはやたらに車で入ろうとせず、車は広いところに駐車した方が賢明(ナビもあまり当てにしない方が良い)だ。
しかし、そんな場面でも電動キックボードが大活躍しそうだ。
これで集落内や海岸線を散歩しても楽しいし、まずはこれで偵察してから車を移動するのも良さそうだ。
逆に電動キックボードで走りにくい道についてだが、案外怖いのが、満足な歩道もないような古い規格の田舎の幹線道路だ。
こうした道路は道幅が広くはないのに車の走行速度が結構速い。
車線いっぱいに使って大型トラックやバスも走る。
私が最も頻繁に利用する近所の片側一車線の街道(県道)がまさにそんな道で、電動キックボードや自転車ではできれば走りたくない。
言い換えれば、電動キックボードを運転することが怖いのではなく、他人の運転する車が怖いのだ。

古くて狭いトンネルなんかも入りたくないと思った。
しかし、「車+電動キックボード」なら、電動キックボードでこうした道路の走行は極力避け、こういった道は車で移動して、その先で電動キックボードを活用すれば良いまでだ。
弱点や問題点について
何もかも良いことばかりではない。
便利で楽しい電動キックボードにも弱点はあるが、ものは考えよう。
この乗り物に何を求めるのか基本に立ち返り、工夫をすれば問題などないはずだ。
小径ホイール
ホイールが小径であることに不満を抱く人や弱点と捉える人もいるようだが、これについては乗り心地・走破性の項目で述べた通り。
ミラー・後方の確認

走行はキープレフトが原則だが、右折する時には当然車線の中央に寄らなければならず、後方の確認が必要だ。
また、速度が遅く相対的に路上では「か弱い存在」であるが故、直進走行中もどんな車がどんなスピードで後ろから迫ってきているのか気になる。
特に路肩に駐車している車や障害物を避ける場合などはしっかり後方確認しないと危険だ。
そして、慣れの問題もあるのだろうが、直接振り返って後方確認することがバイクより怖い。
特に幅が狭いのに交通量が多いような道で振り返るのが嫌なのだが、路面が荒れていたりしたらなおさらだ。
法令的にもミラーの装着は必要だが、こうしたことから公道を走行する電動キックボードにとって案外ミラーは重要だと感じた。
しかし、キックボードはバイクよりハンドルと体との距離が近いなどの乗車姿勢も影響しているかもしれないが、ハンドルの幅も狭くてミラーのステイもあまり長くできない(あまり長くしてしまうと邪魔なだけでなく、壊しやすそうでもある)ため、決してミラーは見やすくはない。
それでもZERO9のミラーは多分マシな方で、向きをちゃんと調整すれば十分実用になる。中には保安基準を満たすためだけに付けたと思われるような、あまり実用にはならなさそうなミラーが付けられているものもある。
ミラーなんて形だけで付いていれば良いなんて思っていると然に非ず。
電動キックボードを選ぶ際にミラーは意外と気にかけた方が良い点の一つであると思う。
また、YouTubeなどで他の人も指摘しているが、最初はミラーの調整のしにくさに少し戸惑った。
バイクの場合はシートに跨った状態、要するに走行している時と同じ姿勢で止まってミラーを調節することができ、走行中にハンドルから片手を離してミラーをいじるのも難しいことではない。
しかし、キックボードは走行中と止まって片足を地面に着けた状態とでは頭の高さが全然違ってしまうため、止まって片足を地面に着けた状態ではミラーを正しい向きに調整することができない。
そして、バイクのように片手運転することも儘ならない。
また、折り畳むとほぼ毎回ミラーの向きを調整し直す必要がある。
これはZERO9に限ったことではなく、電動キックボード全般に当てはまることだと思う。
当初これはちょっと厄介な点だなあと思っていたのだが、良い解決方法を思いついた。

上の画像のように縁石などがあるところの横に着け、右足はキックボードの上、左足は縁石の上に乗せてボードを水平に保って立てば、走行している時と同じ状態になる。
その状態でミラーの調整をすれば良いのだ。
また、折り畳みの踏み台などを車に積んでおいたら縁石などがなくても問題なし。
これで少なくともZERO9の場合はミラー問題に関して一件落着。
※ミラーは現在、視野が今より広くなり、
右折
ミラーの項目で述べた通り、右折するために車線の中央に移動するのが怖い状況もあると往々にしてあると感じた。
しかし、交通量の多いような道では無理せず二段階右折をすれば良いだけだと私は思う。
身軽だから二段階右折も全然面倒ではない。
二段階右折禁止の交差点なら、道路の端に寄って一旦電源を切ってしまい、押して歩く歩行者になって二段階右折のように進めば良いのではないかと思う。
軽くて身軽だからそれも全く苦ではない。
手軽で身軽に行動できる大きなメリットがあるのだから、信号を一回待つ時間より自分の身の安全を優先した方が良い。
車で旅に持ち出しこそ本領を発揮する

本稿では基礎知識的な話が中心になってしまったが、電動キックボードに対してモヤモヤしたものを感じていた人がこの記事で少しでもスッキリしていただけたら幸いだ。
次回は、実際にやってみて合理的と感じた使い方の実例や車載に関して、また、「車+電動キックボード」でやってみたいと思ったことなど、車旅に電動キックボードを持ち出す魅力やメリットについて、より具体的な話をしたいと思っている。