サーフボードを積んだバン

タイダウンベルトの安全な使い方とコツについて〜前編〜



前回「荷物の積載方法や、荷物を運ぶことと車との関係」と題しておきながら、主に車の屋根と屋根への積載の話に終始してしまった。

今回は、車内の荷物と荷物を積載する際の技術的な話をテーマにしたいと思っていたのだが、屋根に物を積む際に必要なベルトやロープの使い方は安全に関わる非常に重要なことであるのに、前回はそれについても全く触れずに終わってしまった。

ということで、今回はタイダウンベルトの安全な使い方や注意点、使い方のコツなどをメインに話を進めたい。

タイダウンベルトの使い方なんて今更と思う人も多いかもしれないので、まずは少し脅しておきたいと思う。

荷崩れは本当に危険

これは随分昔の話だが、知人のカヤック輸入業者が、車の屋根にシーカヤックを満載して運搬中に荷崩れを起こしたことがあった。

第三京浜の橋の上からカヤックが1艇宙を舞い、無人のカヤックが多摩川を下って行ってしまった。

そのカヤックがその後どうなったかと言うと、そのまま行方不明になって数年間旅をした後に東京湾内のどこかの海岸に漂着。

忘れた頃に何故か私の店(直接関わりははないのだけど)に警察から連絡が入り、無事を確認したという後日談もある。

この事件は経済的損失は小さくなかったけど、笑えるような話で済んだから幸いだ。

第三京浜で後続車がいなかったのも奇跡的な幸運だった。

長さ5m・重さ20kgの先の尖ったカヤックが走行中に飛んで他の車に当たっていたらどうなるかなんて、想像しただけで背筋が凍る。

次は本当に怖い話。数年前にニュースか何かで知った実際にあった出来事だ。

走行中に車の屋根からサーフボードを飛ばしてしまい、それを避けた後続車が反対車線を走行していた車と正面衝突。

確かその反対車線を走行していた人が死亡してしまうなどというとんでもない事故になってしまった。

この場合、避けた後続車の運転手は避けなければ自分が死んでしまった可能性もあるのに、道路交通法では、車線をはみ出て正面衝突すると、飛び出した側に重大な過失があるとされてしまうようだ。

原因はサーフボードを飛ばした車の運転手にあるのに酷過ぎる災難だ。

詳細はわからないので憶測でしかないが、キャリアごと飛んだわけではないようなので、積み方やベルトの使い方に問題があった可能性は高い。

タイダウンベルトを初めて使う人は勿論、これまで使ってきた人も甘く見ないで、その使い方で大丈夫か再確認していただきたい

見過ごしていたことがあったり、間違った使い方をしていたり、気付いていなかったことなども案外少なくないのではと思う。

また、自分の趣味と仕事柄、主にサーフボードやカヌー・カヤックなどの積載を例に挙げての説明となり、そんなもの自分には関係ないと思われる人もいるかもしれないが、応用できることも多いので、今更とか関係ないと流さずに、是非目を通していただければと思う。

タイダウンベルトとは?

タイダウンベルト

ところでタイダウンベルトって何?という人のためにまずは大まかな説明から。

タイダウンベルトとは、バックルのついた荷物を固定するためのベルトのことで、ラッシングベルトとも呼ばれる。

そして、大雑把に分けるとカムバックル式とラチェット式の2タイプがある。

カムバックル式はバックルに通したベルトを引っ張ると、カムバックルがベルトを咥えて緩まない比較的シンプルな仕組みだ。

締め付け具合はベルトを引っ張る力の入れ具合次第となる。

それに対してラチェット式は、ベルトを直接手で引っ張るのではなく、ラチェットをカチャカチャと動かしていると徐々にベルトの長さが縮んで締まって行く仕組みとなっていて、非常に強い力で締め付けることができる。

「カムバックル式の方が簡易的で価格も比較的安価で、ラチェット式のほうが立派なもの」とイメージしてしまう人もいるかもしれないがそうではない。

基本的に用途が違うものと考えた方が良い。

カムバックル式は「荷物を括り付けるためのもの」で、ラチェット式は「荷物を強い力で締め付けて固定するためもの」のようなイメージだろうか。

具体的には、ルーフキャリアなどにサーフボード・カヤック・梯子・バッグなどを固定するのは主にカムバックル式のベルトで、荷台にバイクなどの重量物をしっかり固定するためのものがラチェット式バックルのベルトといったところだ。

カムバックル式のタイダウンベルトの使い方

VANをトランスポーター兼宿として使っている人は多いが、ラチェット式のベルトを業務用途以外で使用するシチュエーションで一番多いのも、バイクや自転車などの積載ではないかと思う。

ネットで検索すると、ラチェット式のベルトでバイクを固定する方法などを具体的に説明している動画などもあるようなので、ラチェット式のベルトの使い方はそちらを参考にしていただきたい。

カムバックル式の方が汎用性が高く、使用される機会もずっと多いと思うのだが、そのシンプルさ故か、案外カムバックル式のベルトの安全な使い方やコツなどについての解説はあまり見当たらない。

なので、ここではカムバックル式の方を取り上げようと思う。

キャリアバーに積んだ荷物の固定方法

脅しも含めて前置きが長くなったが、実際の使い方の話に移ろう。

まずは最も機会が多いと思われる、キャリアバーにオプションのアクセサリー類(パッド類などは除く)などを装着せず、バーの上に直接荷物を積んで、タイダウンベルトで固定する方法について。

① バーにベルトを通す

バーにベルトを通す

場合によっては積載物を積んでからバーにベルトを通した方が都合が良いこともあるが、荷物を載せる前にベルトをバーに通しておいた方がやりやすいことが多い

ベルト荷物の上

ベルトを通して積載物を載せたら、上の画像のようにベルトの両側(バックルのある側と無い側)共に、積載物の上を通してバーの外側方向へ持ってくる。

② ベルトを掛ける位置

正しいベルトを掛ける位置

次にバックルの付いていない側のベルトをキャリアのベース部分(脚)の内側を通してバックルに接続するのだが、これが重要なポイントになっている。

上の画像の様に脚の内側を通してベルトを掛ければ、強い横Gがかかるなどして積載物が横にずれそうになった場合にも、ベルトがバーから外れてしまうことはない。

だが、脚の外側にベルトを掛けてしまうと、外側に横ずれした際にベルトもろともバーから脱落してしまう可能性があるので注意が必要だ。

誤ったベルトを掛ける位置

基本的に上の画像のような掛け方はしない。

バックルの向き

また、「バックルの付いていない側のベルトをキャリアのベース部分(脚)の内側を通して」と書いた通り、反対向きにならないように。

上の画像のように、下からベルトをバックルに通す向きにバックルが位置していれば、バックルに通したベルトを手前に引くことになるので力を入れやすい。

たまに反対向きにしている人がいるが、それでは屋根の中心に向かってベルトを引っ張らなくてはならなくなるため、力を入れにくく、次の「余ったベルトの処理」でも不都合が生じてしまう。

③ 余ったベルトの処理

余ったベルトの処理

余ったベルトは、ベルトを引っ張る際の方向に向けたまま、弛まないようにしてキャリアのベース(脚)部分に巻き付け、最後は巻き結び(後述)の要領で固定する。

ルーフレールに取り付けるキャリアバーの場合は大抵脚が短いが、その場合はルーフレールに同じように弛まさせずに余ったベルトを巻き付けてしまえば良い。

このようにしておけば、もしバックルが壊れてしまっても、ベルトの緩みを最小限に抑えることができる。

また、積載物が内側に横ずれするような力が加わったとしても、ずれるの防いでくれることになる。

そして、積載物の外側の端がなるべくキャリアバーのベース(脚)部分に近い位置にくるようにしておけば、左右どっち方向に横Gがかかった場合も、横ずれを最小限に抑えることができてより安心だ。

積載物を乗せる位置は、バーの真ん中より、大抵の場合左右どちらかベース(脚)近くに寄せて積んだ方が良い。

④ 盗難対策

盗難対策外側

余ったベルトの端をドアの開口部から車内に取り込み、アシストグリップに巻きつけて縛ってしまう方法がある。

盗難対策車内側

こうしておくと、ドアを開けてアシストグリップに巻きつけたベルトを解かない限り、ベルトを緩めることはできない。

ベルトをナイフなどで切断されてしまったらどうしようもないが、こうしておいた方が屋根の荷物が盗まれる可能性はずっと低くなるから、暫く車から離れる場合は安心だ。

しかし、雨が降るとベルトを伝って車内に水が侵入してしまうこともあるので、それは覚悟しておく必要がある。

これ以上書くと長くなり過ぎるので今回はここまで。

次回後編は、キャリアの付いていない車の屋根に荷物を直積みする方法や、総括的な注意点などについて書いていこうと思う。

ぜひこちらもあわせてお読みいただきたい。