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【特集】トイファクトリー30年の軌跡!日本を代表するビルダーが愛され続ける理由とは?

名実ともに日本を代表するキャンピングカービルダー、株式会社トイファクトリー。
ワクワクするような「おもちゃ工場」を名前の由来とする同社は今年、創業30周年を迎えます!
その歴史のなかで「SEVEN SEAS(セブンシーズ)」「LAND TEPEE(ランドティピー)」「BADEN(バーデン)」など、名作モデルを数多く生み出してきました。
物置小屋からスタートし、 家族で1台ずつ作り上げていったという同社のキャンピングカーが、なぜここまで愛され、日本を代表するブランドへと成長したのか?
トイファクトリーが築いてきた歴史、オーナーとの絆、そしてこれから描く未来までを大特集します!
運命的な巡り合わせで買い戻された第1号車「LINDBERGH(リンドバーグ)」、30周年を記念して作られたアニバーサリーモデル「BADEN 30th Anniversary Limited Model」もご紹介します。
創業から現在までの豊富なエピソードを知る、株式会社トイファクトリー (広報企画部 マネージャー) 丹羽綾さんからお話を聞きました。

「トイファクトリーの原点には、代表取締役・藤井昭文の幼少期の体験があります。内装業を営んでいた藤井代表の父が趣味でキャンピングカーをDIYで作っていて、子どもの頃から家族旅行といえば車中泊が当たり前だったそうです。
さまざまな場所や景色と共に目を覚ます経験は子供心に楽しい記憶として残っていましたが、寝られないほどの暑さ寒さもたくさん経験して、そこから“断熱”という現在に続くキーワードが生まれました」(株式会社トイファクトリー 丹羽綾さん/以下、丹羽さん)
大きくなり建築やデザインを学び始めた藤井代表でしたが、十代の終わりに生死の境をさまようほどの交通事故を経験します。
学業も中断し、思い描いていた未来が白紙になったとき、頭に浮かんだのが子ども時代に親しんだキャンピングカーでした。
社会勉強も兼ねていくつかの職種を経験、なかでも短期間でまとまった収入を得られるトラック運送業では、開業資金を貯めるため必死で働いたといいます。

「トイファクトリー創業時の作業場が岐阜県八百津町内に今でも残っています。本当に物置小屋のような小さなところです。
藤井代表とお父さんが家具を作って、手先の器用なお母さんがカーテンなどの縫製をして、奥様も営業などを手伝って、家族で作っていたそうです」(丹羽さん)
今のように誰でもパソコンを使える時代ではなく、専門のデザイナーがいたわけでもありません。

「藤井代表が自分でレイアウト図を描き、実車の写真をコラージュのように切り貼りして、コピーしたものがカタログでした。自宅のダイニングテーブルで作業したそうです」(丹羽さん)
はじめはワンオフやカスタムカーのように、1台作ってはそれを展示し、売れたらまた作るというサイクルだったといいます。

「当時のモデルは今よりずっと実直で地味な見た目でしたが、見えないところへのこだわりが評価されて、じわじわとファンがついてくれるようになりました。車を買ってくれたオーナーさんが、自分も働かせて欲しいと申し出て、社員が1人2人と増えていったんです」(丹羽さん)

家族でキャンピングカーを作り始めた最初期の車両が、「ジャパンキャンピングカーショー2025」でも展示されたリンドバーグです。
展示車がそのまま販売車を兼ねていた当時、車を残しておくような余裕はありませんでしたが、後年になって、当時の思い出を手元に置いておかなかったことが少し心残りだったといたという藤井代表。

何気なく見ていたインターネットオークションサイトでリンドバーグと偶然の再会を果たします。
車台番号などから生産第1号車であることを確認、興奮を抑えながら落札したそうです。

所有者は何人か変わりましたが、戻ってきたリンドバーグはほとんど藤井代表が手がけたオリジナルの状態のまま。
車両部分はリペアが必要だったものの、家具などの内装は現在も十分に使える状態を保っていました。

「意外ですが、レイアウトは最近のモデルと大きくは変わらないんです。とにかく断熱性能にこだわって、家族4人が寝られる。ヨーロッパで主流な夫婦ふたり旅を想定したスタイルとは少し違います。やはり藤井代表の原体験があるんですね」(丹羽さん)
丹羽さんも運転したというリンドバーグは、今でもしっかり走行できます。

三十年のときを経てもほとんど破損せず、そのままキャンピングカーとして使える機能性や耐久性は特筆に値します。

家族で楽しめる、しっかり断熱して暑さ寒さに対処する、見えないところにこそ手をかけるという、現在にまで続くトイファクトリー精神がすでにしっかり現れていることがわかります。

岐阜の小さな作業場からはじまったトイファクトリーは、関東進出などを経て着実にファンを増やしていきました。
車の購入者が社員として加わったという創業期のエピソードも印象的ですが、トイファクトリーの大きな特徴のひとつに、ユーザーとの向き合い方があります。

2016年、岐阜県瑞浪市の自然豊かな松野湖畔に「トイの森」という特別なキャンプ場がオープンしました。
利用できるのはトイファクトリー車のオーナーと同社スタッフだけ。
23,000坪の広大な敷地に、約20のキャンプサイトが点在します。

「オーナーさんのためというのはもちろん、実は社員のための施設でもあるという、二大テーマがありました。
最初は数人だったものが、今では社員160人。会社の規模が大きくなるにつれ、どうしてもコミュニケーションのずれや、組織としてのひずみが出てきます。社員に余裕がなくなって、活き活きと遊べていないんじゃないかという問題意識がありました」(丹羽さん)
「遊びが大事」というのは藤井代表が常に口にしているキーワードだといいます。

「みんなが自由に遊べる場所を作ろう、という発想で、ほったらかしになっていた古いキャンプ場を買い取り、当時の社員が手づくりのように整備しました。作業を通じて団結力が高まって、コミュニケーションも活発になったそうです」(丹羽さん)
トイファクトリーでは車を購入したオーナーを「トイファミリー」と呼びます。
「トイの森」はトイファミリーとその同行者、社員、社員の家族が区別なく過ごせる場です。

「滞在中には自然と会話が生まれます。夜には一緒にバーベキューをしたり、オーナーさん同士でオフ会のようになったり。トイファクトリーにはオーナーさんと一緒に遊ぼう、一緒に楽しもうというマインドが強くあります。車だけでなくスタッフが好きだから、と言って買ってくださるオーナーさんも多くいらっしゃいます」(丹羽さん)
イベントなどで顔を合わせることはあっても、ビルダー側のスタッフとオーナーが日常的に交流できる場はそう多くありません。
立場を越え、家族ぐるみの関係性が生まれるのは、トイファクトリー独自の文化といえるでしょう。

このほか、年に一度のオーナーズイベントとして「トイキャン」があります。

300組およそ800人のトイファミリーが一堂に集まり、ステージイベントやマルシェや焚火を楽しみます。

「営業職は日々お客様と接する機会がありますが、開発や製造のスタッフはそうではありません。自分たちの作ったものが喜ばれているのを実際に見て、お話しできることが大きなモチベーションになっています。準備はすごく大変なのですが、社員みんな本当に楽しみにしていますね」(丹羽さん)

このような場で届いたオーナーの声や、オーナーが実際にDIYしている様子が、同社のキャンピングカーづくりに反映されることもあります。

たとえば運転席と助手席のあいだをフラットにしてペットの居場所にするオプション「ワンちゃんマット」は、愛犬家の意見から生まれたそうです。

30年の歴史のほぼ折り返し時期、2009年に生まれたのが、後のフラッグシップモデルとなる「BADEN」でした。
その魅力を尋ねたときの、「言葉で表現するのが難しい」という丹羽さんの台詞がBADENの特徴を物語っています。

「言葉にすると曖昧になってしまうのですが、『バランスがいい』車だと思います。
ユーザーも限定せず、ファミリーでも、ふたり旅でも、ひとり旅でも、どんなスタイルにもマッチする。キッチン前に立てる導線があるのもレイアウトとしての大きな魅力ですね。
長年キャンピングカーに乗り続けてきた藤井代表が、今も愛車として選ぶBADEN。ユーザー目線の使いやすさが徹底されています。
オーナーさんからも『なんかいいよね』というお声や、たくさんのモデルがあるなか『結局BADENだよね』というお声もいただきます。
言葉にできない『なんかいい車』、それがBADENなのかなと思います」(丹羽さん)
一見ありきたりに思える「使いやすさ」「快適性」「居住性」が高く評価され、BADENは現在日本で一番売れているバンコンになりました。

これまで何度か重ねたモデルチェンジの際には、オーナーの声をもとに改良が加わることもあるといいます。
「たとえばBADENの唯一の不満として挙がることが多かった電子レンジの位置ですが、2024年にブラッシュアップし、跳ね上げ式のシートを採用してアクセスしやすくなりました」(丹羽さん)
30周年記念モデルの製作にあたり、もっとも愛されている車としてBADENが筆頭候補に挙がったのは必然でした。
限定60台の「BADEN 30th Anniversary Limited Model」は、30年間の歴史と感謝が詰まった記念モデルです。
すでにハイエース・バンコンの到達点と呼べるほど装備やレイアウトが洗練されたBADENですが、今回のモデルでは特別な配色でアニバーサリーが表現されています。
「これまでもカーサのホームスタイルやブラックエディション、カリモク家具バージョンなど、デザイン違いのエディションはたくさんありました。今回はそれらとは違う、アニバーサリー感を出したいというのがありました」(丹羽さん)

エアロウィンドウには同社のコーポレートカラーである緑を初採用。
「Anniversary Green」と名づけられた限定カラーで、光を受けると深みのある濃いグリーンが宝石のように輝きます。
「これまでもお客様からアウターカラーを変えたいというリクエストはあったのですが、断り続けてきました。今回が初めての試みです。屋内では黒く見えますが、外で太陽が当たると美しいグリーンが上品に光ります」(丹羽さん)
お馴染みのTOY-FACTORYのエンブレムには30周年のロゴが加わり、ひと目で特別なモデルであることがわかります。

インテリアは木目の美しいウッド調で、年輪のように同社の積み重ねてきた歴史を感じさせます。
目を引くのが、アクセントカラーとして使われているブラック。

車内では浮きがちな家庭用エアコンの白いボディですが、今回のBADENではブラックのエアコンパネルを装着し、重厚感のあるインテリアにすっきり馴染んでいます。

シートは高級感のあるキャメルカラーのレザー生地を採用。
よく見ると、REVOシートの可動部分のストラップまでレザーで統一されています。

運転席と助手席のあいだには、後部と共通のレザー生地で仕立てられたセンターコンソールマットが。
一体感のあるデザインで、ペットの居場所としても使えます。

上部のオープンラックには限定アニバーサリープレートが輝き、特別感を演出しています。
なかでも必見なのが、ラックの内側にさりげなく配された「メモリアルロゴデザインパネル」。
細かい文字が連なっているため、一見すると模様かとも思いますが、同社の歴代モデルの名を刻んだものなんです。

「一番の見どころは、やはりメモリアルパネルです。特に初期のモデルは、漏れ落ちがないように、ということに気を遣いました。
資料も残っていないですし、創業当時を知る人の記憶だけが頼りでした。『あった』『いや、なかった』とかなり話し合いましたよ」(丹羽さん)
トイファクトリーの歩みが随所から感じられる記念モデル、すでに多くの受注があるといいます。

「30周年モデルは、やはり歴代のオーナーさんからの反響が大きいです。BADENから乗り換えるという方もいらっしゃいます」(丹羽さん)
藤井代表はトイファクトリーを創業した当初から、世界を視野に入れた将来像を描いていました。
「まだ20~30代の頃に中国工場を立ち上げたり、欧州の大手トレーラーブランドと契約を結んだりし、文化の違いなどから当時はいずれもビジネスとして実を結びませんでしたが、それがとても良い経験になったと聞いています」(丹羽さん)
藤井代表の挑戦心は消えるどころかますます強くなりました。

「日本No.1だけではなく、アジアNo.1のモビリティカンパニーになりたいという構想はずっと持っています。日本のキャンピングカーを海外にもお届けしたい。
現在、トイファクトリーは岐阜県以外に沖縄県にも工場を持っています。不思議に思われることもありますが、これは将来的な海外展開を見据えてのことです」(丹羽さん)
こうした取り組みからも、トイファクトリーが自社製のキャンピングカーの輸出を現実的な目標として考えていることがわかります。
また、海外の車を輸入することは既に事業が本格化しています。

「最近は藤井代表の10年越しの夢だったDUCATO正規輸入が叶いました。
トイファクトリーがバンコンにこだわる理由は、何より走行の安定性と安全性からです。その点でDUCATOは、まさに理想的なベース車両です。藤井代表自身も、現地でDUCATOを運転し、その優れた性能を実感していました。
日本の小さなRV市場では当時はFIATにはメリットがなかったのですが、根気強く実績を示し、正規輸入を実現させました。
DUCATOをまずは成功させて、キャンピングカーのベース車両として優れた他の欧州車も日本に正規導入したい、日本のRV市場を盛り上げたいという思いがあります」(丹羽さん)
ハイエースの供給問題があり、今、日本のバンコン製造は厳しい局面にあります。

「ハイエース以外でもキャンピングカーのベースとなる国産車両の多くで供給不足が続いており、トイファクトリーだけでなく、国内のキャンピングカービルダー全体に共通する課題となっています。
一方で、トイファクトリーはFIAT DUCATOの正規ディーラーであることから、もう一つの柱となるDUCATOベースのモデルの受注が非常に伸びています。
輸入車に不安を感じる方も、正規ディーラーならではのメンテナンス体制に安心感を持っていただけています。
DUCATOの車両サイズが一部のお客様にとって課題となるケースもありますが、それは広い居住空間という大きなメリットでもあるため、実際にDUCATO乗り換えた方からは『広さ』や『走行性能の良さ』といったポジティブなご意見を多くいただいています。
この『車両サイズの大きさ』の話は、藤井社長もよく話しているのですが、当時ハイエースが100系から200系に切り替わる時、ほとんどの人が『大きすぎる』と当時のモデルチェンジに懸念を示したそうです。ところが、今では200系が当たり前になっているのが事実。
DUCATOのサイズについても、少しずつ国内の流通台数が増え、目にする機会が増えていくことで、自然と受け入れられ、心配よりもメリットが上回っていくと考えています。
今後、日本のバンコン市場でDUCATOが大きな柱となることは間違いありません」(丹羽さん)

インタビューの最後に、「トイファクトリーらしさ」とは何か、と丹羽さんに聞きました。
「『はじまりはいつもトイファクトリーから』という哲学があります。新しいことに挑戦するマインド、行動力、やり抜く力はトイファクトリー独自の部分だと思います。とにかく藤井代表がパワフルですし、社員全体の物づくりに対するパワーはかなり強いです」(丹羽さん)
現代的でスタイリッシュなデザインはトイファクトリーの代名詞ともいえるものですが、実はこだわりは「見えないところ」にこそありました。
藤井代表の原体験にもとづく徹底した断熱加工が、トイファクトリー車の快適性を支えています。
それを証明するように、もっともベーシックでスタンダードなモデルといえる「BADEN」が、もっとも愛されているモデルでもあるのです。
また、イベントなどではない日常のレジャーでオーナーとスタッフが遊び場を共有し、一緒になって楽しむ文化は特徴的です。
近年では災害時に活躍するマルチパーパスモビリティ「MARU MOBI(マルモビ)」の開発や、環境に優しい車づくりにも取り組んでいます。
次の30年、トイファクトリーはどんな未来を描くのか?挑戦の歩みは止まりません。
ワクワクするような「おもちゃ工場」を名前の由来とする同社は今年、創業30周年を迎えます!
その歴史のなかで「SEVEN SEAS(セブンシーズ)」「LAND TEPEE(ランドティピー)」「BADEN(バーデン)」など、名作モデルを数多く生み出してきました。
物置小屋からスタートし、 家族で1台ずつ作り上げていったという同社のキャンピングカーが、なぜここまで愛され、日本を代表するブランドへと成長したのか?
トイファクトリーが築いてきた歴史、オーナーとの絆、そしてこれから描く未来までを大特集します!
運命的な巡り合わせで買い戻された第1号車「LINDBERGH(リンドバーグ)」、30周年を記念して作られたアニバーサリーモデル「BADEN 30th Anniversary Limited Model」もご紹介します。
創業から現在までの豊富なエピソードを知る、株式会社トイファクトリー (広報企画部 マネージャー) 丹羽綾さんからお話を聞きました。
トイファクトリーの原点は“家族”
家族旅行の思い出が生んだ「断熱」へのこだわり

「トイファクトリーの原点には、代表取締役・藤井昭文の幼少期の体験があります。内装業を営んでいた藤井代表の父が趣味でキャンピングカーをDIYで作っていて、子どもの頃から家族旅行といえば車中泊が当たり前だったそうです。
さまざまな場所や景色と共に目を覚ます経験は子供心に楽しい記憶として残っていましたが、寝られないほどの暑さ寒さもたくさん経験して、そこから“断熱”という現在に続くキーワードが生まれました」(株式会社トイファクトリー 丹羽綾さん/以下、丹羽さん)
大きくなり建築やデザインを学び始めた藤井代表でしたが、十代の終わりに生死の境をさまようほどの交通事故を経験します。
学業も中断し、思い描いていた未来が白紙になったとき、頭に浮かんだのが子ども時代に親しんだキャンピングカーでした。
社会勉強も兼ねていくつかの職種を経験、なかでも短期間でまとまった収入を得られるトラック運送業では、開業資金を貯めるため必死で働いたといいます。

「トイファクトリー創業時の作業場が岐阜県八百津町内に今でも残っています。本当に物置小屋のような小さなところです。
藤井代表とお父さんが家具を作って、手先の器用なお母さんがカーテンなどの縫製をして、奥様も営業などを手伝って、家族で作っていたそうです」(丹羽さん)
今のように誰でもパソコンを使える時代ではなく、専門のデザイナーがいたわけでもありません。

「藤井代表が自分でレイアウト図を描き、実車の写真をコラージュのように切り貼りして、コピーしたものがカタログでした。自宅のダイニングテーブルで作業したそうです」(丹羽さん)
はじめはワンオフやカスタムカーのように、1台作ってはそれを展示し、売れたらまた作るというサイクルだったといいます。

「当時のモデルは今よりずっと実直で地味な見た目でしたが、見えないところへのこだわりが評価されて、じわじわとファンがついてくれるようになりました。車を買ってくれたオーナーさんが、自分も働かせて欲しいと申し出て、社員が1人2人と増えていったんです」(丹羽さん)
創業初期のキャンピングカー「リンドバーグ」

家族でキャンピングカーを作り始めた最初期の車両が、「ジャパンキャンピングカーショー2025」でも展示されたリンドバーグです。
展示車がそのまま販売車を兼ねていた当時、車を残しておくような余裕はありませんでしたが、後年になって、当時の思い出を手元に置いておかなかったことが少し心残りだったといたという藤井代表。

何気なく見ていたインターネットオークションサイトでリンドバーグと偶然の再会を果たします。
車台番号などから生産第1号車であることを確認、興奮を抑えながら落札したそうです。

所有者は何人か変わりましたが、戻ってきたリンドバーグはほとんど藤井代表が手がけたオリジナルの状態のまま。
車両部分はリペアが必要だったものの、家具などの内装は現在も十分に使える状態を保っていました。

「意外ですが、レイアウトは最近のモデルと大きくは変わらないんです。とにかく断熱性能にこだわって、家族4人が寝られる。ヨーロッパで主流な夫婦ふたり旅を想定したスタイルとは少し違います。やはり藤井代表の原体験があるんですね」(丹羽さん)
丹羽さんも運転したというリンドバーグは、今でもしっかり走行できます。

三十年のときを経てもほとんど破損せず、そのままキャンピングカーとして使える機能性や耐久性は特筆に値します。

家族で楽しめる、しっかり断熱して暑さ寒さに対処する、見えないところにこそ手をかけるという、現在にまで続くトイファクトリー精神がすでにしっかり現れていることがわかります。
オーナー「トイファミリー」との強い絆
オーナー専用キャンプ場「トイの森」とは?

岐阜の小さな作業場からはじまったトイファクトリーは、関東進出などを経て着実にファンを増やしていきました。
車の購入者が社員として加わったという創業期のエピソードも印象的ですが、トイファクトリーの大きな特徴のひとつに、ユーザーとの向き合い方があります。

2016年、岐阜県瑞浪市の自然豊かな松野湖畔に「トイの森」という特別なキャンプ場がオープンしました。
利用できるのはトイファクトリー車のオーナーと同社スタッフだけ。
23,000坪の広大な敷地に、約20のキャンプサイトが点在します。

「オーナーさんのためというのはもちろん、実は社員のための施設でもあるという、二大テーマがありました。
最初は数人だったものが、今では社員160人。会社の規模が大きくなるにつれ、どうしてもコミュニケーションのずれや、組織としてのひずみが出てきます。社員に余裕がなくなって、活き活きと遊べていないんじゃないかという問題意識がありました」(丹羽さん)
「遊びが大事」というのは藤井代表が常に口にしているキーワードだといいます。

「みんなが自由に遊べる場所を作ろう、という発想で、ほったらかしになっていた古いキャンプ場を買い取り、当時の社員が手づくりのように整備しました。作業を通じて団結力が高まって、コミュニケーションも活発になったそうです」(丹羽さん)
トイファクトリーでは車を購入したオーナーを「トイファミリー」と呼びます。
「トイの森」はトイファミリーとその同行者、社員、社員の家族が区別なく過ごせる場です。

「滞在中には自然と会話が生まれます。夜には一緒にバーベキューをしたり、オーナーさん同士でオフ会のようになったり。トイファクトリーにはオーナーさんと一緒に遊ぼう、一緒に楽しもうというマインドが強くあります。車だけでなくスタッフが好きだから、と言って買ってくださるオーナーさんも多くいらっしゃいます」(丹羽さん)
イベントなどで顔を合わせることはあっても、ビルダー側のスタッフとオーナーが日常的に交流できる場はそう多くありません。
立場を越え、家族ぐるみの関係性が生まれるのは、トイファクトリー独自の文化といえるでしょう。
オーナーズイベント「トイキャン」とは?

このほか、年に一度のオーナーズイベントとして「トイキャン」があります。

300組およそ800人のトイファミリーが一堂に集まり、ステージイベントやマルシェや焚火を楽しみます。

「営業職は日々お客様と接する機会がありますが、開発や製造のスタッフはそうではありません。自分たちの作ったものが喜ばれているのを実際に見て、お話しできることが大きなモチベーションになっています。準備はすごく大変なのですが、社員みんな本当に楽しみにしていますね」(丹羽さん)

このような場で届いたオーナーの声や、オーナーが実際にDIYしている様子が、同社のキャンピングカーづくりに反映されることもあります。

車体名:Bergen(with DOG オプション)
たとえば運転席と助手席のあいだをフラットにしてペットの居場所にするオプション「ワンちゃんマット」は、愛犬家の意見から生まれたそうです。
フラッグシップモデル「BADEN」の進化
日本一売れているバンコン「BADEN」の魅力

30年の歴史のほぼ折り返し時期、2009年に生まれたのが、後のフラッグシップモデルとなる「BADEN」でした。
その魅力を尋ねたときの、「言葉で表現するのが難しい」という丹羽さんの台詞がBADENの特徴を物語っています。

「言葉にすると曖昧になってしまうのですが、『バランスがいい』車だと思います。
ユーザーも限定せず、ファミリーでも、ふたり旅でも、ひとり旅でも、どんなスタイルにもマッチする。キッチン前に立てる導線があるのもレイアウトとしての大きな魅力ですね。
長年キャンピングカーに乗り続けてきた藤井代表が、今も愛車として選ぶBADEN。ユーザー目線の使いやすさが徹底されています。
オーナーさんからも『なんかいいよね』というお声や、たくさんのモデルがあるなか『結局BADENだよね』というお声もいただきます。
言葉にできない『なんかいい車』、それがBADENなのかなと思います」(丹羽さん)
一見ありきたりに思える「使いやすさ」「快適性」「居住性」が高く評価され、BADENは現在日本で一番売れているバンコンになりました。

BADEN Karimoku version
これまで何度か重ねたモデルチェンジの際には、オーナーの声をもとに改良が加わることもあるといいます。
「たとえばBADENの唯一の不満として挙がることが多かった電子レンジの位置ですが、2024年にブラッシュアップし、跳ね上げ式のシートを採用してアクセスしやすくなりました」(丹羽さん)
30周年記念モデルの製作にあたり、もっとも愛されている車としてBADENが筆頭候補に挙がったのは必然でした。
30周年限定モデル!「BADEN 30th Anniversary Limited Model」
限定60台の「BADEN 30th Anniversary Limited Model」は、30年間の歴史と感謝が詰まった記念モデルです。
すでにハイエース・バンコンの到達点と呼べるほど装備やレイアウトが洗練されたBADENですが、今回のモデルでは特別な配色でアニバーサリーが表現されています。
「これまでもカーサのホームスタイルやブラックエディション、カリモク家具バージョンなど、デザイン違いのエディションはたくさんありました。今回はそれらとは違う、アニバーサリー感を出したいというのがありました」(丹羽さん)

エアロウィンドウには同社のコーポレートカラーである緑を初採用。
「Anniversary Green」と名づけられた限定カラーで、光を受けると深みのある濃いグリーンが宝石のように輝きます。
「これまでもお客様からアウターカラーを変えたいというリクエストはあったのですが、断り続けてきました。今回が初めての試みです。屋内では黒く見えますが、外で太陽が当たると美しいグリーンが上品に光ります」(丹羽さん)
お馴染みのTOY-FACTORYのエンブレムには30周年のロゴが加わり、ひと目で特別なモデルであることがわかります。

インテリアは木目の美しいウッド調で、年輪のように同社の積み重ねてきた歴史を感じさせます。
目を引くのが、アクセントカラーとして使われているブラック。

車内では浮きがちな家庭用エアコンの白いボディですが、今回のBADENではブラックのエアコンパネルを装着し、重厚感のあるインテリアにすっきり馴染んでいます。

シートは高級感のあるキャメルカラーのレザー生地を採用。
よく見ると、REVOシートの可動部分のストラップまでレザーで統一されています。

運転席と助手席のあいだには、後部と共通のレザー生地で仕立てられたセンターコンソールマットが。
一体感のあるデザインで、ペットの居場所としても使えます。

上部のオープンラックには限定アニバーサリープレートが輝き、特別感を演出しています。
なかでも必見なのが、ラックの内側にさりげなく配された「メモリアルロゴデザインパネル」。
細かい文字が連なっているため、一見すると模様かとも思いますが、同社の歴代モデルの名を刻んだものなんです。

「一番の見どころは、やはりメモリアルパネルです。特に初期のモデルは、漏れ落ちがないように、ということに気を遣いました。
資料も残っていないですし、創業当時を知る人の記憶だけが頼りでした。『あった』『いや、なかった』とかなり話し合いましたよ」(丹羽さん)
トイファクトリーの歩みが随所から感じられる記念モデル、すでに多くの受注があるといいます。

「30周年モデルは、やはり歴代のオーナーさんからの反響が大きいです。BADENから乗り換えるという方もいらっしゃいます」(丹羽さん)
BADEN 30th Anniversary Limited Model
ビルダー:株式会社トイファクトリー
タイプ:バンコン
ベース車両:トヨタ・ハイエース スーパーロング キャンパー特装車
乗車定員:6~7名
就寝定員:4名
全長:5,380mm
全幅:1,920mm
全高:2,285mm
ナンバー:8ナンバー
参考価格:税込9,850,000円~(2WD ガソリンの場合)
公式サイト:トイファクトリーHP
トイファクトリーの未来「日本のキャンピングカーを世界に」
アジアNo.1のモビリティカンパニーを目指して
藤井代表はトイファクトリーを創業した当初から、世界を視野に入れた将来像を描いていました。
「まだ20~30代の頃に中国工場を立ち上げたり、欧州の大手トレーラーブランドと契約を結んだりし、文化の違いなどから当時はいずれもビジネスとして実を結びませんでしたが、それがとても良い経験になったと聞いています」(丹羽さん)
藤井代表の挑戦心は消えるどころかますます強くなりました。

トイファクトリー沖縄工場
「日本No.1だけではなく、アジアNo.1のモビリティカンパニーになりたいという構想はずっと持っています。日本のキャンピングカーを海外にもお届けしたい。
現在、トイファクトリーは岐阜県以外に沖縄県にも工場を持っています。不思議に思われることもありますが、これは将来的な海外展開を見据えてのことです」(丹羽さん)
こうした取り組みからも、トイファクトリーが自社製のキャンピングカーの輸出を現実的な目標として考えていることがわかります。
また、海外の車を輸入することは既に事業が本格化しています。

EURO-TOY相模原
「最近は藤井代表の10年越しの夢だったDUCATO正規輸入が叶いました。
トイファクトリーがバンコンにこだわる理由は、何より走行の安定性と安全性からです。その点でDUCATOは、まさに理想的なベース車両です。藤井代表自身も、現地でDUCATOを運転し、その優れた性能を実感していました。
日本の小さなRV市場では当時はFIATにはメリットがなかったのですが、根気強く実績を示し、正規輸入を実現させました。
DUCATOをまずは成功させて、キャンピングカーのベース車両として優れた他の欧州車も日本に正規導入したい、日本のRV市場を盛り上げたいという思いがあります」(丹羽さん)
ハイエースの供給問題があり、今、日本のバンコン製造は厳しい局面にあります。

「ハイエース以外でもキャンピングカーのベースとなる国産車両の多くで供給不足が続いており、トイファクトリーだけでなく、国内のキャンピングカービルダー全体に共通する課題となっています。
一方で、トイファクトリーはFIAT DUCATOの正規ディーラーであることから、もう一つの柱となるDUCATOベースのモデルの受注が非常に伸びています。
輸入車に不安を感じる方も、正規ディーラーならではのメンテナンス体制に安心感を持っていただけています。
DUCATOの車両サイズが一部のお客様にとって課題となるケースもありますが、それは広い居住空間という大きなメリットでもあるため、実際にDUCATO乗り換えた方からは『広さ』や『走行性能の良さ』といったポジティブなご意見を多くいただいています。
この『車両サイズの大きさ』の話は、藤井社長もよく話しているのですが、当時ハイエースが100系から200系に切り替わる時、ほとんどの人が『大きすぎる』と当時のモデルチェンジに懸念を示したそうです。ところが、今では200系が当たり前になっているのが事実。
DUCATOのサイズについても、少しずつ国内の流通台数が増え、目にする機会が増えていくことで、自然と受け入れられ、心配よりもメリットが上回っていくと考えています。
今後、日本のバンコン市場でDUCATOが大きな柱となることは間違いありません」(丹羽さん)
「トイファクトリーらしさ」とは何か?

インタビューの最後に、「トイファクトリーらしさ」とは何か、と丹羽さんに聞きました。
「『はじまりはいつもトイファクトリーから』という哲学があります。新しいことに挑戦するマインド、行動力、やり抜く力はトイファクトリー独自の部分だと思います。とにかく藤井代表がパワフルですし、社員全体の物づくりに対するパワーはかなり強いです」(丹羽さん)
現代的でスタイリッシュなデザインはトイファクトリーの代名詞ともいえるものですが、実はこだわりは「見えないところ」にこそありました。
藤井代表の原体験にもとづく徹底した断熱加工が、トイファクトリー車の快適性を支えています。
それを証明するように、もっともベーシックでスタンダードなモデルといえる「BADEN」が、もっとも愛されているモデルでもあるのです。
また、イベントなどではない日常のレジャーでオーナーとスタッフが遊び場を共有し、一緒になって楽しむ文化は特徴的です。
近年では災害時に活躍するマルチパーパスモビリティ「MARU MOBI(マルモビ)」の開発や、環境に優しい車づくりにも取り組んでいます。
次の30年、トイファクトリーはどんな未来を描くのか?挑戦の歩みは止まりません。