遊びだけじゃない!「防災ツール」としてのキャンピングカー
遊びのギアとして最高の相棒であるキャンピングカーは、いざという時にも頼りになるパートナーでもある。「動く家」であるキャンピングカーは、車種によって装備の差はあれど、「非常時のシェルター」として優れた機能を備えているのだ。
現に、東日本大震災以降、熊本大地震や西日本豪雨など、大規模災害に見舞われるたびに、キャンピングカーを購入する人が増えるという事象もある。
悲しいことだが、日本は災害が多い。自分と家族を守るために、各自が備えておくこと(=自助)が何より大切な国なのだ。
目次
防災ツールとして優れているわけ
ご存知のとおり、キャンピングカーは『家』である。地震や津波、台風などで自宅が被害を受け、そこには暮らせない状態になった時、動く家であるキャンピングカーは、何より役に立つし心強い。
それは誰しも想像がつくところだろうが、もう少し詳しく、なぜ・どこが・どう役に立つのかを理解しておこう。
そうすることで、何を備えておくべきか・いざという時どうするか、日ごろの備えと有事の際の動き方がよりスムーズになるからだ。
大規模災害時の避難所として
まず、有事の際の逃げる先(=避難所)の状況について考えておこう。
まず、あなたがお住まいの地域の広域避難所はどこだろう。おそらくは最寄りの学校の体育館や公民館などではなかろうか。そこの収容人数はどのぐらいか。ペットがいるとして、ペット同伴で避難受け入れしてもらえることになっているか。
各自治体のホームページを調べたり、役所の防災課に問い合わせるとわかるはずだ。
- 避難所の意思決定は「現場が最優先」
ここで覚えておかねばならないのは、避難所での判断や意思決定は「現場判断」が最優先だということ。
たとえば、ペット同伴OKのはずの避難所でも、重篤なアレルギー患者、抵抗力の衰えている乳幼児やお年寄り、が大勢身を寄せていれば、ペット同伴者はどうしても遠慮せざるを得ない。
- 避難所のキャパシティは十分ではない
広域避難所は対象とする地域がおおよそ決まっているが、住民全員を収容する能力など、もちあわせてはいない。広域に被害が及んだ場合など、収容能力を超えてパンクする可能性だってある。
事実、これまでは指定避難所に避難していなければ、公的な支援を受けることができなかったが、手続きをすることで車の中や安全が確認された自宅などにいても、支援を受けることができる「指定避難所外避難者」という制度を導入する自治体が増えている。
こうした事情を考え併せたとき、キャンピングカーならば誰に遠慮もいらない「我が家」である。ペットや乳幼児、お年寄りを連れて逃げるのにも最適なツールだといえよう。
また、避難所がパンパンならば、自分たち家族はキャンピングカーに逃げれば、それだけ避難所に空きができる。自前で避難所を用意しているのだから、社会的リソースを圧迫する必要はないのだ。
快適性・セキュリティ・移動手段
改めて言うまでもないが、キャンピングカーの住空間は非常に快適である。手足を伸ばして眠れるし、プライバシーも守られている。何よりセキュリティも万全だ。
残念ながら、体育館などでの避難所生活は一人当たりのスペースに限りもあるし、暑さ・寒さも厳しかろう。プライバシーが保たれない、セキュリティ上の心配がある、などの理由で乗用車に車中泊して『エコノミークラス症候群』を発症して病院に搬送された、という例もある。
- すぐれた居住性
なぜキャンピングカーは快適か。広いから、寝泊まりするようにできているから。それももちろんだが、なによりも『断熱性能が優れているから』というのが大きい。
一般的な乗用車は「移動のための道具」であり、エンジンを停止した状態で長時間、車内に滞在することをまったく想定していない。炎天下の駐車場で、車内温度があっという間に50℃ぐらいまで上昇した、なんていう話は珍しくもない。
その点キャンピングカーは、中で寝泊まりするのが前提なので、壁面や天井には断熱材が仕込まれている。手足が伸ばせる、プライバシーやセキュリティの面で安心、というだけでなく、何より居心地よく過ごせるのだ。
- 基本的生活インフラがそろう
普通の車でも、エンジンをかけていれば冷暖房や照明を使うことはできる。しかし、災害時には燃料の確保も難しくなる。その点、キャンピングカーには走行用とは別に、生活用のサブバッテリーを搭載しているので、いたずらにアイドリングすることなく、ある程度の空調や照明を使うことができる。
災害発生から、最初に行政から食料や水の供給などが届くまでの時間は、平均すると2〜3日。その3日間を何とか乗り切るだけの電力があれば心強いだろう。
また、自宅で数日にわたる大規模停電にあったとき、キャンピングカーを巨大なバッテリーとして活用した人もいる。ガレージのキャンピングカーから自宅の冷蔵庫に電気を供給して、食材を守ることができた、という例もある。
- 逃げ出すためのツール
なにしろ車なので、自由に移動ができる。今いる場所に危険が迫ってきそうだとなったら、走って逃げればいい。生活インフラを丸ごと積んだ状態で逃げられる、走るシェルターと考えればこんなに心強いものもない。
いつでもスタンバイ!にしておくために
さて、いかにキャンピングカーが防災ツールとして優れているか、もうお判りいただけたと思う。ただし、どんな防災ツールにも言えることだが、持っているだけでは活用できない。いつ襲ってくるかわからないのが天災だ。
災害時にキャンピングカーを活用するために、日ごろから気を付けておきたいことがいくつかある。
非常食・飲料水をストックする
「とりあえず3日間を自力でしのぐ」ことを目標に、食料や飲料水を搭載しておこう。家族にアレルギー体質の人がいる場合はなおさら、この食糧備蓄が重要だ。健康上の理由で食べられるものに制約のある人ほど、安心な食べ物や薬品は備えておきたい。
非常用だからといって、特別なものを買い求める必要はない。普段好んで食べているインスタント食品や保存のきく食品を多めに買ってストックしておき、消費期限が迫ってきた物から食べて消費。次を補充する、の繰り返しで十分だ。
ペットフードやケア用品も忘れずに
ペットも家族の一員。ペットと一緒に旅がしたくてキャンピングカーを買う人は多い。
そのため、非常時のことを考えるなら、ペットフードやペットのケアに必要なもの(ペットシーツ、トイレの砂、予備のリードなど)は常備しておきたい。高齢だったり持病がある場合は、薬の予備も必要だ。
トイレは大切!
つい、水や食料の供給にフォーカスしがちだが、衛生環境は人間の健康に直結する。
キャンピングカーの場合、すべての車両にトイレが備わっているわけではない。普段、遊びで使っている分にはトイレは不要、と思っていても、非常時に備えて組み立て式の簡易トイレを積んでおくと安心だ。
また、トイレがついている車でも、タンクの処理がしばらくできない場合を想定して、タンクに貯める必要がない「非常用トイレ処理セット」を用意しておくといい。
燃料確保は重要!
外出から帰ったら、燃料(あれば水タンクも)を満タンにする習慣をつけよう。せっかくの避難ツールも、動けなければ話にならない。
プロパンガス搭載ならプロパンガスをチェックしておくこと。カセットガスも使ったら補充を心がけ、発電機がある場合にはいざという時使えるように、定期的に試運転するなどメンテナンスをしておこう。
キャンピングカーの安全を確保せよ!
どんなに備えていても「キャンピングカーそのもの」が被害を受けてしまえば元も子もない。実際、台風でキャンピングトレーラーが風に飛ばされ、全壊したという例もある。
キャンピングカーは側面積が大きく、風の影響を受けやすい。また、体積のわりに重量の軽いトレーラーは自走式以上に影響を受けやすい。トレーラーユーザーの中には車庫にアンカーを打設して、強風が予想されるときは手動ウィンチをつかって固縛している人も。
さいごに…
キャンピングカーショーの講演で「キャンピングカーと防災」の話をすると「自分たちだけ助かるようで、気が引ける」という声を耳にする。
「避難所で嫉妬されそう」「自分たちだけ快適に過ごすのはちょっと…」ということらしい。
だが、考えてほしい。災害に遭えば誰もが困窮する。それはお互い様である。だからこそ、平時に備えておくべきなのだ。キャンピングカーで逃げたからといって、後ろめたい思いをすることはない。あなたは非常時に備え、優秀な動くシェルターを手に入れたのだから。
そして第二に、冒頭にも書いた通り、あなたと家族がキャンピングカーに避難することで、避難所にそれだけ余裕ができる。
キャンピングカーでしっかり休んだあなたは、体育館で寝起きしている人より元気でいられる。非常時には、具合の悪い人を一人でも減らすことが、医療への負担軽減にもなる。あなたが元気なら、進んで避難所の清掃や配給物資を配るなどの手伝いをすればいい。
それでも、強いストレスにさらされて暴言を吐いたり、逆恨みをするような人がいるのなら、せっかく移動できるシェルターにいるのだから、嫌な人から離れればいい。身を守る意味でも、それは重要だ。
さらに、熊本地震のときの被災状況について取材したときに言われたことがある。それは、「道路にがれきが散乱して、車が出せなった。車で避難ができなかった」というもの。
移動できなくなる可能性も視野に入れておかないと、何もかもキャンピングカー任せに考えていては、いざという時困ることにもなりかねない。
キャンピングカーが使えなかったらどうするか。そこまで含めて考えておこう。