黎明期の国内キャンピングカーを振り返る。【仮想でキャンピングカーを架装 Vol.01】
キャンピングカーメーカーの架装した立派な装備を備えた綺麗で豪華な感じのするキャンピングカーも勿論良いけど、キャンピングカーに興味のある人なら、自分でキャンピングカーを作ってみたいと思う人も少なくないのではないかと思う。
私も自分でVANの内装を快適に過ごせる部屋になるようにいじったりしているわけだが、いずれは自分で作った「動く家」に住みたいなんてのが長年の夢でもある。そこで、まずは仮想の世界でキャンピングカーを架装してみたらどうだろってことについて書いてみたいと思う。
架装工場で得た経験
もう随分昔(世の中がバブルな頃なので本当にかなり昔)の話になってしまうが、実は私はほんの短い期間だったけど、失業しているときにキャンピングカーや特装車の架装をしている会社の工場でアルバイトをしていた経験がある。
また、その工場ではルノーエクスプレス(カングーの前身のような車)の軽自動車版のような試作車を自動車メーカーから依頼されて作ったりしたこともあった。当初は作っているその車がまさか自動車メーカーからの依頼とは思わずに見ていたのだけど、その後その個体そのものが確かモーターショーのメーカーブースに出品され、それをベースにメーカーから正式な車種として製品化されたのは少々ビックリだった。
そして、なんとなくそういうものはFRP(繊維強化プラスチック)で作るのかなあと思っていたら、カットされてしまった運転席から後ろの殆どの部分は全て平らな天板から作り出されていた。
その新車のボディーをぶった切るところから全く違う新しいボディーが出来上がるまでの過程全てを、決して大きくはない町工場の中で目の当たりにすることができたわけだが、職人さんの技術に感心というより、もはや感動を覚えた。
その他、普段そこらで目にすることも多い電気工事会社の作業車を作っていたり(現在の詳しい状況は知らないが、少なくとも当時はこの手の車はキャブ以外の部分は全てこうした工場で作られていて、高所作業車はクレーンメーカーの下請けで小型クレーンなどを架装をする比較的小さな町工場のような板金屋さんとかで作られていた。)、衛星中継車の製作の末端に関わらせてもらったことなどもあった。
なんとなく車は全て自動車メーカーの大きな工場で作られていて、試作車みたいなものも自動車メーカーの研究室みたいなところで秘密裏に製作されているように認識している人が多いのではないかと思うが、こうして携わる機会を得るまでは自分もそうだった。
所詮私は下働きだったので、私の仕事と言えば元々付いていた装備品を外して車の中を裸にしたり、身体中チクチクになりながら断熱材のグラスウールをボディーと内張りの間に詰め込んだり、シーリングのゴム類を取り付ける作業などが主だったのだけど、新車のボディーを大胆にカットしたり、平らな鉄板から新たなボディーが作られて行く様などは見ているだけでも非常に面白かったし、自動車業界の意外な構造的一面を垣間見られたようで大変興味深い良い経験ができたと思う。
また、この時の経験は、自分で車をいじることを身近に感じるようになったこと、そしてその難しさを知ったことの両方の要因となっている。
黎明期の日本製キャンピングカー事情
上の画像は90年代のアストロベースの小型のキャンピングカーの内部を撮ったものだが、その頃の国産キャンピングカーの内装はこれとは雰囲気が大きく異なっていた。
多くの国産キャンピングカーはエンジや紫色とかのビロードみたいな生地や大理石模様がプリントされたベニアなどが随所に使われていて、変なアーチみたいな形をした間仕切りみたいなものが設えられていたり、テーブルとかそこかしこにやたら金の縁取りとかがあったり、ミニチュアシャンデリアみたいなのが天井からぶら下がっていたりしていて、演歌やムード歌謡みたいなのが似合いそうな夜のお店風な雰囲気が漂っていた。しかも当時はなんとそれが主流だったのだ。
そういうのが「豪華」と考えられていた時代だったのか、その頃のキャンピングカーを買えるような世代とその頃のビルダーの人達の趣味趣向が反映されていたからなのだと思うのだが、とにかく日本製のキャンピングカーの殆どはアメリカのものともヨーロッパのものとも趣が大きく異なり、独特な雰囲気を醸し出していた。
その頃から私はキャンピングカーに興味や憧れのようなものもあったし、架装工場の一つで働かせてもらったのは大変良い経験となったので感謝もしているけど、サイズの大小に関わらず、アメリカのキャンピングカーが憧れだった私にとっては、失礼ながら少なくともその頃の日本製のキャンピングカーのセンスは到底受け入れられるものではなく、所有したいと思えるような車などハッキリ言って一台もなかった。
この上の画像はカートラジャパンの会場で撮影したちょっとだけ古めのトヨタ コースターを改造した車両のもので、本文とは直接関係はない(内装外装ともなかなかセンスよくまとめられている車だった)けど、ある時、そのバイトをしていた工場に超大物俳優のコースターかシビリアンのキャンピングカーが修理か点検で入庫したことがあり、その車の中に入る機会があった。
車内に足を踏み入れる前は「日本の大物俳優もハリウッドスター並みにロケ先でこういうバスコンとかを使うようになったのか。日本も進歩したのかなー。」なんて半分期待のような気持ちも抱いていたのだけど、その期待は見事に裏切られた。
実際に中に入ってみるとハリウッドとは程遠い前述のようなジャパンドメスティックな雰囲気バリバリで、おまけにスタッフの忖度なのかカーステレオの近くにあったカセットテープはその俳優のものばかり。
やっぱり臆面もなくナルシストになれなければスターにもなれないかなあとか、拳銃どころか機関銃やバズーカ砲まで登場する刑事ドラマってやっぱり強烈にダサいよなぁ、これだから日本の刑事ドラマってああなっちゃうのかなあなどと思いながら、作業をした記憶があるが何をしたかは全く覚えていない。
見た目は大事
普及したり根付くことで切磋琢磨され、より良い製品になったりセンスが磨かれるのは大抵のことに当てはまる。しかし逆に、日本製のキャンピングカーのセンスが良くなって行ったことが日本にキャンピングカーが根付いた大きな要因になったとも私は思っている。勿論他にも様々な要因があるが、見た目は重要だ。
もしキャンピングカーがカラオケスナックかラブホテルのような雰囲気が主流で定着したままだったらどうだろう? 相変わらずそれを好む人達もいるだろうが、現在それが広く受け入れられるとは考えにくい。
自分のセンスとは全く異なるセンスの服屋に足を踏み入れる人は少ないが、それと同じようにセンスがあまりにかけ離れていたり受け入れられないものばかりだったとしたら、見向きもしないと言うより、自分の世界からキャンピングカーそのものを排除してしまう人も多く、キャンピングカーが現在のように多くの人から興味を抱かれる存在になることもなかったと思うのだ。
絶望的なセンスが主流だった日本のキャンピングカー事情を打開してくれたのはヨコハマモーターセールスのロデオで、この車の登場で日本のキャンピングカー界が大きく変わっていったのではないかと私は思っている。私が勝手に思っていることだけど、他にもそう思っている人は少なくないのではないかと思う。
ベースのシャーシはいすゞのピックアップトラックのファスターロデオで、エンジンは非力でトランスミッションはマニュアルしかなかったけど、内装も外装もまるでアメリカ製のキャンピングカーの雰囲気そのものでありながら、大き過ぎず日本の道路事情にも無理のないサイズ。外側も内側も見た目がこれ以上カッコイイ日本車のキャンピングカーは今でもなかなか見つからない。
そして、絶望的な雰囲気のキャンピングカーが少なくなったのと同じ頃から、徐々に刑事ドラマで警察がやたらバンバン拳銃をぶっ放すことが少なくなり始め、カラオケはカラオケスナックよりカラオケボックスが主流になった。キャンピングカーというニッチな世界を通して、世の中の移り変わりは何事もリンクしているのだとしみじみ感じたりしてしまったりもする。
何だか仮想でキャンピングカーを架装する話から遠のいてしまったような気もするが、そういうわけでもない。日本のキャンピングカーメーカーの作るキャンピングカーがカッコよくなって巷に多く輩出されるようになったからこそキャンピングカーが普及し市民権を得らたわけで、そうした下地がなければ「仮想でキャンピングカーを架装」なんてタイトルで文章を書く機会を得られることもないのだ。
現在VAN LIFEやタイニーハウスといった言葉があり、「住める車」を自分で作ることがオシャレでカッコイイこととした動きが若い人達に広がっている。それはややもすると現在の若い人達が作り出した新しい文化のように捉えられてしまうようなこともある。
しかし、それだって私がこうして自作キャンピングカー関連の文章を書く機会が得られるのと同様で、先鞭の辿ってきた道、キャンピングカーの普及というベースの上に成り立っている良く言えば文化、あるいはあまり良くない言い方をすれば流行に過ぎないのだ。そこは勘違いしないで欲しいと思っている。
変遷を知り、リスペクトを忘れないことも大事。昔の日本のキャンピングカーがカッコ悪かったようなことを書いてしまったし、私は自作派だが、そういった意味でも日本にキャンピングカーを根付かせてくれたにキャンピングカーメーカー・ビルダーには大きな敬意を表したい。というところから「仮想でキャンピングカーを架装」の話しが始まるのだ。
何だか前置きの部分が長くなってしまって、ここから本題に入るような感じなのだが、これ以上書くと非常に中途半端な部分で終わってしまうことになるので、この続きはまた次回。次回は、キャンピングカーを自作する場合のベース車やアプローチの仕方の違いによる3つのパターンの話から始めようと思っている。