車中泊
【実体験レポ】車中泊で乗り切る災害時の生活術|能登半島地震を経て

レジャーとして人気が高まっている「車中泊」。
同時に、災害時の避難手段としても注目されるようになってきました。
実際、キャンピングカーを避難所として活用するなど、「車中泊=防災対策」という考え方も少しずつ浸透しています。
私は、能登に近い高岡市を拠点に、軽自動車(ダイハツ・ムーヴ)で車中泊生活を送っています。
2024年1月の能登半島地震が発生する前日まで、能登半島中央部にある七尾市で約1カ月間、車中泊をしていました。
仕事の都合で実家に戻れず、偶然にも“震災前夜”まで現地で生活していたのです。
その後、2024年3月に車中泊生活を再開し、現在も継続中です。
幸い、私は大きな被害を受けずに済みましたが、同僚たちから聞いた避難所生活の実態は、決して快適なものではありませんでした。
中には一時的に車中泊を選んだ人もいたようです。
そんな体験を経て、私は今、「家の中にある道具だけでどこまで車中泊生活ができるか」「日常使いもできる防災用品には何があるのか」というテーマを、自らの実体験を通して検証しています。
本記事では、能登半島地震で見聞きした避難所の現実や車中泊避難の実態、そして日々の生活実験を通して見えてきた「災害時の車中泊の可能性」についてご紹介します。
防災意識を高めたい方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
能登半島地震の避難所の状況

震災直後、同僚から聞いた話です。
この方は、七尾市内でもとくに被害の大きかった地区の住民で、その地域のほとんどの住人が避難所に集まっていたそうです。
ところが、避難所には毛布・食料などの備えがほとんどなく、子どもや高齢者にお菓子が配られただけ。
多くの人が寒さと空腹の中で一晩を過ごすことになったといいます。

避難所生活での問題点について、次のようなものがありました。
・プライバシーが守られない(仕切りがない)
・会話やいびきなどの騒音に悩まされる
・上下水道の破損により、風呂・トイレが使えない
・自宅から持ってきた食料を他人の目が気になって食べづらい
・食料をたかられ、断ると悪口を言われるなど、人間関係のストレス
・体育館の床が冷たく固いため、よく眠れない
また、食料が避難所に届くまでには時間がかかり、支援が行き届かなかった避難所もあったようです。
中でも一番の問題は、プライバシーが守られないことだったと聞きました。
仕切りや段ボールベッドの準備は不十分で、対応も後手に回っていたとのことです。
もちろん、市役所の職員も被災者だったため、そうした状況も致し方なかったのかもしれません。
意外だったのは、「家から持ち出した食料が避難所では食べづらかった」という話でした。
言われなければ気づかなかった点でしたが、確かに他人の視線を感じながら食事をするのは抵抗があると感じます。
また、自宅に戻られた人も1カ月近く水道が使えず、料理・洗濯・風呂・トイレなどが大変だったようです。
これは、かつての東日本大震災でも見られた状況でした。
さらに、自宅に戻ったことで避難所のような、食料支援が受けられなかったという話も耳にしました。
車中泊で過ごした体験者の証言

私の同僚の中にも、震災時に車中泊で夜を過ごした方がいました。
その方は、地震発生時にちょうど七尾方面へ車で向かっている途中で、地震に遭遇したそうです。
やむを得ず、その晩は高速道路のパーキングエリアで車中泊をすることに。
家族で移動していたため、車内は窮屈で、しかも毛布などの防寒具は積んでいなかったとのこと。

幸い、わずかに食料や飲み物は持っていたものの、1月1日という真冬の寒さは想像以上に厳しかったと話してくれました。
さらに、駐車スペースにはなんとか駐車できたそうですが、トイレは使用できず、やむなく人目を避けて用を足すという状況だったそうです。
ニュースでは、車中避難をしていた高齢者が「エコノミークラス症候群」によって命を落としたという報道もありました。
このケースでは、1台の車に複数人が乗っており、横になることもできず、座席に座ったまま過ごしていたとされています。
普段から車中泊の経験がない人にとっては、突然の車中泊避難は準備不足も重なり、非常に過酷な体験になったと想像できます。
私の場合

私は、車中泊生活をいったん終了した後に震災に遭いました。
幸いなことに実家の建物は大きな損壊はありませんでした。
1月3日からは職場に出勤し、震災対応に追われる日々が始まりました。
ただし、当初は自動車道路が使用不可となっており、片道2時間かけて一般道で通勤していました。
実家のある地域では、水道・電気ともに問題なく使用できていました。
スーパーなどの食料品店は一時的に混乱がありましたが、ちょうど正月ということもあり、自宅にはある程度の食料備蓄があったため、そこまで困ることはありませんでした。
一方、七尾市では電気は復旧したものの、上水道は1カ月使えない状況が続きました。
ただ、私の勤務先の工場では地下水を使用していたため、水に関しての不自由はなく、トイレも問題なく利用できました。
私の多くの同僚は七尾市周辺で生活しており、その中で私だけが比較的通常に近い生活を送れていたという点では、かなり恵まれていたと言えるかもしれません。

今回の経験を通して感じたのは、車中泊の経験があると、被災時でも食料や入浴が可能な地域まで移動し、避難所でのプライバシーが確保できない不自由な暮らしを回避できる点です。
たとえば、今回の震災では、高岡市まで避難していれば、食料・風呂・トイレの心配はありませんでした。
七尾市から高岡市まで片道約60km。
運転に不慣れな方にとっては負担かもしれませんが、それでも2時間ほどのドライブで状況は大きく変えられたのです。
しかし、実際に多くの方が車中泊の経験を持っておらず、「逃げて暮らす」ためのノウハウや準備が不足していたのだと痛感しました。
車中泊が”避難生活”として有効な理由

私はこれまで、車中避難を念頭において車中泊生活を続けています。
その経験から、車中泊という手段が災害時の避難生活において有効だと実感しています。
ここでは、その理由を4つの観点からご紹介します。
プライバシーの確保ができる
避難所では、常に他人の目にさらされるため、心身ともに落ち着かない状況が続きます。
仕切りがあったとしても、完全に安心できるとは言えません。
その点、車中泊であれば、プライバシーが確保でき、安心して休めます。
安全な場所へ移動できる
建物は動かせませんが、車であれば自分の判断で安全な場所へ避難することが可能です。
震災だけでなく、水害や土砂災害でも、早めに安全なエリアへ移動することができます。
日頃から車中泊の経験があれば、寝具や食料品の装備が整っているため、素早く避難できるのも利点です。
水問題を回避できる(トイレ・飲み水の確保・入浴・洗濯など)
今回の能登半島地震でも、上水道の破損が大きな問題でした。
車中泊での避難であれば、トイレや風呂、洗濯が問題ない地域へ移動することで、快適さを取り戻すことができます。

また、スーパーなどで専用ボトルを購入すれば、無料でミネラルウォーターを汲める場所もあるため、飲料水の確保も可能です。
生活の一部を持ち運べる
これは私のように常に車中泊生活をしている方限定かもしれませんが、車には日常生活で必要な道具一式を常に積んでいます。
そのため、どこにいても「通常の生活」を送ることができます。
また、貴重品を車と共に持ち歩ける点も安心材料のひとつです。
実際に震災時には空き巣の被害も多く発生しました。
普段の生活すべてとは言いませんが、生活の一部でも車と一緒に移動できるのが車中泊だと思っています。
防災を意識した車中泊装備
アウトドアを趣味としている方は、防災意識が高い傾向があり、実際に災害時にも対応しやすいと言われています。
事実、お店のアウトドア関連の場所は、防災を意識した商品陳列をしていました。
ここでは、私が車中泊生活を送る中で「防災にも役立つ」と感じた道具をご紹介します。
カセットコンロ

家庭用の一般的なカセットコンロで十分です。
アウトドア用のシングルバーナーを無理に買う必要はないでしょう。
鍋料理などで使っているごく普通のもので問題なし。
もし家庭がオール電化であれば、災害時に備えて一台用意しておいて損はないグッズです。
ポータブル電源

私はEcoFlow社の「River2」(約300Wh)を使用していますが、防災の観点では1000Whクラスのものがおすすめです。
このクラスであれば、炊飯器や電気ケトルなどの調理家電のほとんどが使えるからです。
また、避難所生活で困ることの上位はスマホの充電ができない事でした。
ポータブル電源やモバイルバッテリーは、命綱といっても過言ではありません。
布団・毛布・寝袋

一般的な布団でも良いです。
無理に寝袋を買う必要はないと考えています。
ただし、寝袋の方がコンパクトに収まるため、車中泊には便利です。
簡易トイレ・段ボール箱・レジ袋・新聞紙・ウェットペーパー

能登半島地震でも、長期的に深刻だったのがトイレ問題です。
簡易トイレは便利ですが、大便には対応が難しい場合もあります。
ポータブルトイレがあれば便利ですが、高額なので、段ボール箱とレジ袋で簡易トイレを作り、後始末は新聞紙やウェットペーパーで行うようにします。
N-BOXなどの車種では、後部座席を跳ね上げることで、車内での簡易トイレ空間が確保できます。
なお、被害が少ない場所へ移動できれば、実際に使用する必要がない場合もあります。
あくまで、緊急の対策です。
調理器具・紙皿

家で普段使っている調理器具は、大きすぎるかもしれません。
車中泊には、コンパクトなフライパン・鍋を各1つずつ用意するのがちょうどよいです。
また、紙皿・割りばしのように使い捨てであれば、洗い物の手間が省けます。
米、乾麺、水、レトルト食品

備蓄食材として、米や乾麺は長期保存できますし、水があれば料理が出来ます。
また、他の食材が無くても、これだけで空腹を十分満たす事ができます。
レトルトカレーとパックごはんですが、これで十分に災害食材になります。
これらは、カセットコンロ・調理器具と一緒に、玄関近くに置いておけば、いざという時すぐに持ち出せます。
車中泊避難場所の探し方

では、災害時において車中泊避難が適した場所とはどこでしょうか?
私が実際に車中泊生活をしながら感じた、避難場所としての条件を挙げてみます。
トイレがあること(必須)
最も重要な条件は、24時間利用可能なトイレがあることです。
トイレがなければ、長時間の滞在は難しくなります。
長期滞在しやすい環境であること
周囲からの視線や規制を受けにくく、車中泊が可能な場所であることです。
騒音が少なく、車の出入りが自由なスペースがあれば、安心して休めます。
飲料水が手に入りやすい場所
近隣にスーパーや自動販売機、給水サービス付きの商業施設があれば十分対応可能です。
とくに大型スーパーでは、専用のペットボトルを購入するだけで、以降は無料でミネラルウォーターを繰り返し補給できます。
公園の駐車場が理想的な理由
この条件を満たすのが、「公共の公園の駐車場」です。
例を挙げれば富山県氷見市の比美之江公園。
ここはトイレがあり、道の駅と違い長期滞在がしやすく、洗い場や水飲み場が整備されています。
条件を少し妥協すれば、「道の駅の駐車場」も避難先として有効です。
ただし、長期滞在せずに翌日には場所を変え、営業時間外の滞在に留めると迷惑にはなりません。
どちらの施設も事前に、管理者に「災害避難中です」と伝え車中泊の許可をもらうと、トラブルも避けられます。
まとめ
今回の能登半島地震を通じて、避難所での生活がどれほど大変か、多くの実体験や証言を耳にすることができました。
もちろん、家族での避難となると、車中泊は簡単ではないでしょう。
実際、私のムーヴでは、車内で快適に過ごせるのは1人まで。
車外に荷物を置く前提なら、2人までが限界でしょう。
それでも、この記事を通じて、「車中泊という選択肢もある」と参考になれば、うれしく思います。
車中泊は、いきなり初めてみても、うまくいかないものです。
しかし、経験を積むことで、足りない物が揃い、自分なりの工夫やトラブルにも対応が出来るようになってきます。
だからこそ、私からの提案はこれです。
「避難訓練と思って、年に数回、車中泊をしてみませんか。」