トラックの荷台は無地のキャンバスのようなものだ【仮想でキャンピングカーを架装 Vol.03】
「仮想でキャンピングカーを架装」の初回では、キャンピングカーを自作する場合、ベース車やアプローチの仕方の違いにより三つのパターンがあると書いた。そして前回は一つ目のパターンとして、実際に架装してみたいと思うVANについて書かせてもらった。
目次
VANタイプで仮装したい車 続き
今回は二つ目、三つ目のパターンについて書いていくのだがその前に、VANタイプでもう一台キャンピングカーに架装してみたい車があったことを思い出したのでここに追加しておく。
日本では売っていないランドクルーザー70のTroop Carrierというタイプだ。日本ではトヨタから正規に国内で販売されたことはない車種だが、オーストラリアなどから輸入して乗っている人がたまにいるので、見かけたことがある人もいるのではないかと思う。
この車はかつて日本でも販売されていた普通のバンボディーの70より長さが長く、ボディーもハイルーフとなっている。正確なサイズはわからないが、ハイエースより少し短い程度の長さの荷室を備えた、ランドクルーザーとハイエースをかけ合わせたような車だ。ハイエースにも4WDはあるし、本格派4輪駆動車のVANとしては、日本には三菱デリカD5があるが、色々な意味でこの70 Troop Carrierに敵う四輪駆動のVANはないのではないかと思う。
しかし、はっきり言って日本ではこの車の性能など必要ないかもしれない。だが、これを自分仕様のキャンパーに改造したところを考えるだけでワクワクしてしまう。
このキャンパーに棲んでいたら、何処へ行こうと何が起ころうと生きて行けそうな気がする。こんな夢のある車もそうないのではないだろうか。
それでは、今回の本題である二つ目、三つ目のパターンについて書いていこう。
日本では現実的でない大胆なボディー改造
二つ目のパターンは車のボディーを大胆にカットしたり継ぎ足したりするなど、ボディー自体を大幅に改造する方法だ。
アメリカなら上の写真のように車を大改造してしまう人もいるが、日本の車検制度の下では、ボディー自体をいじることには大きな制約がある。
よって素人が挑むのは現実的ではなく、プロのビルダーでなければほぼ無理と考えて間違いない。上の写真のような破天荒とも言える改造に憧れはするが、日本に住んでいる限りこれは仮想と言うより空想の世界で終わってしまいそうだ。
トラックの荷台に家を載せる
三つ目のパターンはトラックの荷台に家を載せる方法だ。
少年の頃に憧れたキャンピングカーは、キャブコンやバスコンなどより、むしろ荷台にキャンパーが積まれたピックアップトラックだった。
日本では見たこともない大きいサイズのピックアップトラックに家のようなものが積まれている。そのなんとも大胆で、逞しく頼もしい姿を見て、「アメリカって凄いなぁ」と心底感心していた。ピックアップトラック+キャンパーは憧れのアメリカの象徴の一つだったと思う。
そして、自分でキャンピングカーを作ろうと思った場合、実は意外と敷居が低くて自由度が高いのがトラックキャンパーではないかと思う。と言うのも、トラック自体には特に手を加えず、荷台に家となる箱を載せるだけであれば、何かとややこしく制約の多い日本の車検もクリアできるからだ。
以前にも書いたことがあるが、法規上何も問題がなくても、例えばVANの車内に棚やベッドなどが置かれているだけで、ディーラーでは車検を受け付けてくれない(同じ状態で陸運局へ直接持って行けば問題なくてもだ)ことがある。
キャンピングカーとして登録する場合にはベッドのサイズや、シンクや調理設備の設置など色々と規定があり、難関が待ち構えている。しかし、家となる降ろせる箱(積載物)が道路交通法に抵触しないサイズや積み方で、安全確実に積載されているのであれば、その箱(家)の中がどんな状態であろうと、積載物だから車検とは無関係だ。そして、降ろしてしまえば普段は普通のトラックとして仕事などでも使うことができる。
トラックの荷台は、好きなように作ったものを載せられる『無地のキャンバス』のようなものなのだ。
国内のピックアップトラック・軽トラック情勢
さて、世界的には大変人気のあるピックアップトラックだが、以前は国内でもホンダ・ダイハツ・スズキを除く全メーカーがピックアップトラックを出していたのに、現在正規に販売されているのはトヨタのハイラックス1車種のみで、それも荷台の短いダブルキャブの4WDしかない。(ハイラックスはトヨタブランドになっているが実は日野の製造するトヨタとの合作のような車だ)
そんな事情も関係するのかしないのか、日本独自の規格の軽トラをベースにしたキャンピングカーが増え、自分で作った箱(家)を軽トラの荷台に載せる人たちがジワジワと増えつつあるのもご承知の通りだ。
現在OEM(他社ブランドの製品を製造すること)を除いて実際に軽トラを製造しているメーカーはダイハツ・スズキ・ホンダの3社のみ(商用車はOEMばかりで種類が減ってしまって本当に面白味に欠けている)。そして寂しいことにホンダも撤退が決定しているようだ。
軽トラックの魅力
現行の軽トラの荷台サイズは、各メーカーとも長さ1940mm、幅1410mmと、統一規格でもあるかの如く全く同じ(キャビンの延長されたスーパーキャリー・ハイゼットジャンボを除く)で、軽自動車という規格の中で数々の条件をクリアして目一杯有効に使えるように作られた結果がこの数字のようだ。
だが、この限られたスペース内で快適に過ごせる家を作る工夫をするのは大変面白いことだと思う。
また、箱を作るのではなく、上の写真のようなフレームと幌(商用の普通の幌とは別で、専用に作られたもの)で構成された半分テント・半分キャンピングカーのようなタイプも出現している。
これなら箱(家)を降ろすよりも簡単にノーマルの状態に戻せ、車検時や普通にトラックとして使いたい時も面倒がない。重量も軽いから走行性能的にも有利だ。
横の幌をフルオープンにしてみたり、使い方のバリエーションも想像が広がるし、テントっぽくて旅気分も高まり楽しそうだ。
こうした軽トラキャンパーの人気が高い理由は、手頃な価格やサイズ、税金など費用の負担が少なくて済むと言うより、もしかしたらこの「カスタマイズの幅広さ」が最大の要因になっているのかもしれない。
そして、日本からピックアップトラックが消えてしまった原因が軽トラの存在であることは否めないと思う。
4ナンバーのボンネットのあるピックアップトラックの場合、重量的な積載量は軽トラより多くなるが、実際のところ荷台の有効面積は大差ない。そして、現在の軽トラは動力性能も居住性も、日本でダットラやハイラックスが大活躍していた時代から比べると、比較にならない程向上している。
軽自動車のサイズの規格拡大や軽トラの性能的な向上も重なり、より経費がかかって場所も取るピックアップトラックの存在価値が薄れていってしまったのだ。
しかし、たとえ性能が良くなってもやはり軽自動車は軽自動車だ。どうしても無理していると言うか余裕のなさが感じられ、やはり快適さが違うことは否めない。
また私の場合、背は最高に高かった時で175cm(悲しいかな既に少し縮み始めているようだ)とそんなに高くもないのだが骨格が大きいようで、日本人向けに作られた軽自動車のシートがどうしてもピッタリとフィットしないといった私的な事情もある。
バモスで遠出もするし、軽トラでは最高で房総半島の南の方から冬の妙高高原まで行ったことはある(4駆だったのでこれで行ってみた)が、それ以上は自分の体格では結構きつそうだった。
軽トラかピックアップトラックか
そんなわけで、日本独自の軽トラキャンパーには魅力がいっぱいある反面、自分自身はこれをキャンパーにしたいとはあまり思わない。
実際に軽トラを持っていたこともあって、幌を張って寝られるようにするのは面白そうだとは思ったけど、主な使用目的である『カヌーを何艇も積んで運搬する』のが難しいため、結局その軽トラもキャンパーにしようとは思わなかった。
誤解されそうなことを敢えて言ってしまうと、実は私は軽自動車なんて規格がない方が良いと思っている。
それより車に関わる税負担などを全般的に下げて、現在の軽自動車と同じかそれ以下の負担でもう少し大きいサイズの車に乗れるようにした方が、むしろ税収も増えて自動車産業全体も潤うと思うからだ。これについては持論があるが、長くなるので程々にしておこう。
軽自動車というカテゴリーがなくなり、現在の軽自動車と同じかそれ以下の経費負担で済むなら、もう少しだけ大きくてキャビンがもっと安全で快適な車が現れたり、もう少し排気量を上げられれば、長距離を走っても快適で燃費もむしろ良くなると思うのだ。それでも農道や畦道での使用を考慮しなければならないため、手頃なサイズ感のミニトラックは残ると思う。
と言いながら、もう一つ軽トラの魅力を付け加えておく。それはフラットベッドであることだ。ジャクソン・ブラウンとイーグルスのグレン・フライが作った名曲「Take it easy」という曲の中に、Flatbed Fordという歌詞が出てくる。
日本車も含めアメリカンスタイルのピックアップトラックの荷台は、『内側にタイヤハウスの出っ張りがある』か、ステップサイドと言って『荷台の外側にタイヤハウスが出っ張っている』カッコは良いけど非常に無駄な構造の形が一般的だ。そして荷台が開くのはテールゲートのみでサイドは開かない。
しかし、現在の軽トラは特装車以外は荷台を隅々まで無駄なく使うことのできるフラットベッドで、3方向にアオリが開くようになっている。
アメリカンスタイルのピックアップトラックに積む箱(家)はタイヤハウスを避けるために底の形を必ず凸の反対の形にしなければならないが、フラットベッドならその必要がないため、広い平らな床に作ることも可能で室内レイアウトの自由度が高く、積み下ろしもしやすい。
ところがところ変わればで、オーストラリアでもトラックは人気があるが、アメリカと違ってフラットベッドが一般的だ。特に良いのがこれまたランクル70。日本でも数年前にアニバーサリーモデルとして一定期間だけランクル70のピックアップトラックが販売されたことがあるが、それは荷台の短いダブルキャブで、しかもタイヤハウスのある荷台だった。しかし、オーストラリアではシングルキャブの平らな荷台のランクル70ピックアップが大人気だ。
積むものなんか大してなくても、この無駄に広い荷台がカッコ良いし、先ほど、同じランクル70のTroop Carrierに敵う四輪駆動のVANはないのではと思うと書いたけど、この荷台に自作の家が積まれていたら最高だ。
しかし残念ながら、トヨタの車なのに日本では売っていない。もしかしたらまた荷台の短いダブルキャブが販売されることがあるかもしれないが、このランクル70フラットベッドのトラックが日本で正規販売されることはほぼ100%ないと思う。ランクル70トラックに家を積んだところ想像してみたりもするが、やはり日本に住んでいる限りこれも仮想と言うより空想で終わってしまいそうだ。
日本で買うならこのトラック
そんなことで、現実路線に戻って現在日本で普通に買えそうなトラックでキャンパーにしてみたいと思うのは、トヨタのライトエース/タウンエーストラックだ。はっきり言ってしまうと全くカッコ良い車ではない。
しかし、ライトエース/タウンエースバンをちょこっとカスタムして見栄えを良くして乗っている人もいるように、このトラックも少し手を加えれば随分違って見えるのではと思う。例えば色を塗り替えて、ホイールをデイトナとかにしただけで全然違って見えそうだ。
また、現存する中では唯一のライバルであるマツダのボンゴ トラック(日産などへのOEMも含め)のようにセミキャブオーバーではなく、前輪が座席より少し前にあるため、全くカッコ良くないとは書いたけど、何かデザイン的にもポテンシャルがありそうだ。
大きさは全長4,275mm、全幅1,675mmと長さも幅もカローラスポーツあたりより10cmかそれ以上小さい。しかし荷台は長さが2,430mm、幅が1,585mmあるので、軽トラより長さ+490mm、幅+175mm大きいことになる。大変使いやすそうなサイズでありながら、十分な大きさの家を積めそうだ。
この荷台に普段はサーフボードを無造作に積み、遠出をするときは自作の箱(家)を積むような使い方をしたら楽しそうだ。或いはこの車用にも軽トラにあるような「キャンパー幌+フレーム」なんかを作ってくれるメーカーが現れてくれたら面白いんじゃないかと思う。
ピックアップトラックが消えてしまった現況の中、軽トラだけじゃなく、このサイズのトラックにももっと目を向けてみてはいかがだろうか?
マツダもボンゴ トラックを生産終了するなんて噂がある。なんとも寂しい!ピックアップトラックばかりか、手頃感のあるサイズの小型トラックまで消えてしまわないで欲しいと願うばかりだ。