旅する車に積んでおきたい工具たち
車で旅に出ている際には、車に何か不具合があっても行きつけの修理工場にすぐに行ける訳ではない。
そして車で旅に出たいと思う時点で、生活に必要で否応なしに車に乗っている人とは車への思いも違うはずだ。
自分では手に追えない場合を除き、愛車に何かあったら多少なりとも対処できるようにしておきたいものだ。
そのためにはある程度の知識も必要だが、最低限の工具も必要だ。
また、旅をしたりキャンプをするために必要であったり便利な工具類もある。
今回はそんな旅する車に積んでおいたら良いと思う工具類についての話。
目次
純正で付属する車載工具
メーカーが最低限必要と考えて、車の付属品としている車載工具がある。
ホイールの交換に必要なレンチとジャッキ(今時の普通の乗用車の事情には疎い私は、近頃多くなっているスペアタイヤなしの車にもこれが備えられているのか否かわからないが)・プライヤ・ドライバーなどがセットされているのが一般的なキット内容。
足りると言えば足りるが、車で旅をするには、これだけではちょっと心許ない装備だ。
ジャッキは家で使う時用にもっと使いやすいフロアジャッキとかを別途用意しておくのも良いが、スペースの無駄なくピッタリ収まる純正品が車載には便利で、普通はそれで十分だ。
輪止めは含まれている場合といない場合があるが、ジャッキを使う際に備えて、車載工具に含まれていない場合は追加しておくべきだ。
しかし、その他の付属の工具類は高級車の場合はどうかわからないが、一般的に決して精度の高い高級な工具ではない。
拘るなら別な物に入れ替えるなど、全部そのまま積んでおく必要はないと思う。
ドライバー
ドライバー(Screwdriver)は基本中の基本の工具の一つだが、様々なサイズや長さがあり、100均にも十分使えるものもある(用途によってはむしろ便利で使いやすい場合もある)が、1本何千円もする高級品もある。
純正の車載工具には大雑把な表現だが中くらいのサイズのプラス(Phillips HeadのNO.2)のドライバーとマイナス(Slotted head)のドライバーが各1本、或いは両頭になっていてシャフトの向きを差し替えてグリップに挿入することでプラス・マイナス兼用になるドライバーが1本含まれているのが一般的だ。
しかし、一般的に日本でプラスドライバーとか十字ドライバーと呼ばれているものが実はちょっと曲者で、一見同じように十字が切ってあって大小の違い程度しか差のないように見えるネジにも全く異なる規格が幾つか存在し、当然使用するドライバーも異なり、基本的に互換性がない(全く無理とまでは言えないものもあるが)ので注意が必要。
十字ネジで最も普及しているのはアメリカのフィリップス(Phillips、因みにオランダの電機メーカーはLが一つのPhilipsで関係はない)社の開発した規格で、その中でも最も多く使われていると言うより、圧倒的に世の中で多く使われていて、一般的にプラスのネジ・ドライバーとしてイメージされているのはPhillips HeadのNO.2のことだ。
しかし、同じPhillips HeadにもNO.1やNO.3(または1番・2番・3番)もあり、これらも比較的多く(圧倒的にNO.2が多いけど)使用されている。
これまた大雑把に言うと、より細かな物にNO.1が使われていたり、大きく立派なネジがNO.3だったりする。
そしてNO.2のドライバーでNO.1やNO.3のネジを回そうとしても上手く回せないだけでなく(NO.1:NO.3はどちらも全く不可能)、ネジを痛めてしまう原因になる。
なくて止むを得ない場合以外はNO.2のドライバーでNO.1やNO.3を回そうとしない方が良い。
車のトラブルでの応急処置には大抵Phillips HeadのNO.2だけで事は足りると思うが、旅する場合には車以外の道具をいじらなければならないこともある。
そうした場合に備えて、一応自分の持ち物にどんなネジが使われているか(どの規格の十字ネジか)は確認しておいた方が良いと思う。
マイナスのネジは、なんとなく昔より少なくなっているように思うが、どんな場合にも絶対にプラスのネジの方が優れているとは限らないためマイナスのネジも健在だ。
また本来の用途以外にも使い道があるのがマイナスドライバーだ。
上の画像のような缶の蓋開けは一般的な用途だが、何かをこそぎ落としたり穿ったりなど、ちょっとしたスクレーパーやタガネやノミの代わりにもなる。
あまり勧められる使い方ばかりではない(特に高級品では絶対にやりたくはないけど)が、シンプルだけど実はかなりマルチパーパスな工具だ。
サイズだけでなく、精密な物用と丈夫で雑に使っても構わない物など数本用意しておくのも良い(そんなに車にたくさん積んでおく必要はないが)と思う。
刃先を交換できて、ラチェット式になっているドライバーもある。
例えば私の場合はサーフボード・SUPボードのフィンの取り付けに3/32”のヘキサが必需品なのだが、こういった刃先の変えられるラチェット式ドライバーがあると大変便利だ。
他の刃先を付けた場合も、グリップが太くて力を入れやすく、ラチェット機能も重宝で使いやすいから、車ではない旅にも大抵これは持って行く。
しかし、便利だけど普通のドライバーの方が使いやすいシチュエーションも多々あるため、車に積んでおくドライバーはこれ1本で済むというようなことでもないと思う。
ドライバーはサイズや長さも色々あるが、自分と自分の用途にあったものを、人の勧めだけで選ぶのではなく、自分で考えて複数用意しておいた方が良いと思う。
ペンチ類
日本ではプライヤがペンチの一種のような位置づけとなっているが、「ペンチ」は日本語で、日本で一般的にプライヤと呼ばれるものはコンビネーションプライヤのことだ。
英語では挟む工具の総称がプライヤ(正しくは複数形でPliers)で、むしろ言葉の使い方が逆転しているような感じでもある。
プライヤ(コンビネーションプライヤ)は日本で言うところのペンチ類の代表格の一つだが、パイプ状の物からレンチの代わり(なるべくならやらない方が良いけど)に六角のボルトやナットを掴むなど、色々な物を掴むことができるマルチパーパスな工具であるため、先にも書いた通り、車に付属の車載工具にもこれが含まれているのが一般的だ。
また意外と知らない人もいるが、根元部分はワイヤーを切ることができるようになっている。
日本で言う普通のプライヤの変形のようなタイプでパイププライヤーとかウォーターポンププライヤと呼ばれているのがこのタイプ。
名前の通り、よりパイプを摘みやすくしたタイプだが、ボルトやナットを掴むのもこちらの方が普通のプライヤより向いている。
しかしそれだけではない。この開口部が傾いた形状が鍋やダッジオーブンの蓋など、熱い物を摘むのにも都合が良いのだ。
車をいじる時にも何かと便利な形状だが、そういった用途にも使えるので、やはりこれも旅する車の必携工具の一つと私は考える。
日本でラジオペンチと呼ばれるこのタイプは、英語ではニードルノーズまたはロングノーズ プライヤだ。
普通のプライヤより細かな作業に向いていて、物を修理するのにも作るのにも何かと出番が多い。
これも車に積んでおいた方が良い工具の一つと言うより、ニードルノーズも私は絶対に積んでおくべき工具の一つだと思う。
モンキーレンチ
純正車載工具に含まれていることも多い、無段階でサイズを調節することのできる大変便利なレンチだが、拘る人にはモンキーを嫌う人もいる。
確かにガタつくような精度の低いものはネジを傷めてしまうだけでなく、全く使い物にならない事もある。
しかし、ありとあらゆるサイズのレンチを車に積んでおく事など現実的ではないし、全てのボルト・ナットがmm規格ではなくインチ規格の場合もあるから、そうした意味でも無段階で調節することができるのは便利だ。
モンキーにも大小様々なサイズがあるが、ある程度以上の品質で、大きさの違う2種類くらいを車には積んでおくと良いと思う。
レンチ・スパナ
モンキーレンチが便利と書いたが、使用頻度の高いサイズの六角のボルト・ナット用のメガネやソケットレンチ、スパナ類を用意しておいた方が便利だ。
サイズが決まっていればやはりモンキーより断然使いやすくトラブルも少ない。
しかし、使用頻度の高いサイズと言っても、それは車によって違うし、使う他の道具類によっても違うので、自分でアレンジする必要がある。
ところで、日本ではレンチはメガネレンチ・ソケットレンチ・六角レンチなど、ドライバー以外のネジを回すための工具の総称的な言葉として使われ、スパナは、メガネレンチとは違って口が空いたタイプ(Open Ended Wrench)を区別して呼ぶ言葉のように使われていると思うが、何のことはない。
スパナは主にイギリスで使われる言葉なだけだ。
ボンネット(イギリス)とフード(アメリカ)のような関係だ。
余談だが私はボンネットフードと書いてしまう自動車評論家は信じないことにしている。ボンネットフードではシーサイド海岸になってしまう。
トルクレンチ
車載工具にはホイールを固定するナット(ヨーロッパ車の場合は逆にボルトであることも多い)のサイズのレンチが通常含まれている。また夏タイヤ/冬タイヤの交換を自分でする人も多い。
しかし、このホイールナット(またはボルト)をいい加減なトルクで固定するのは非常に危険なことだ。
全てのナット(またはボルト)が均等なトルクで締められていなければならないことや、緩ければホイールがガタついたり外れてしまう危険性が高まることなどは想像がつくが、締め付けトルクは強ければ良いということではなく、強く締めすぎても破損の危険性がある。
強く締めすぎて走行中に破損などしたら大変なことになってしまう。
そこで、設定した数値以上のトルクがかからない仕組みになっているのがトルクレンチだ。
特にキャンピングカーのように車の重量が重くなるほど、いい加減な足元はリスクを高めることになるから、タイヤの空気圧はもちろん、ホイールナット(またはボルト)の締め具合をたまにチェックすることも必須だ。
自分でタイヤの交換をする人には必需品のトルクレンチだが、家に置いておくのではなく、いっそ車に積みっぱなしでも良いのではないかと思う。
プラグレンチ
少なくとも燃料噴射装置が電子制御ではなくキャブレターが普通だった頃は、自分で点火プラグを外し、電極を点検しメンテナンスしたり、定期的にプラグを交換するのは特別なことではなかった。
しかし、昨年バモスのエンジンの調子が悪くなり、プラグを交換しようと思って一番近くの「黄色い帽子」へ行って愕然とした。
以前はカー用品店に各種のプラグがズラッと並んだコーナーがあるのが普通の光景だったのだが、どこにもプラグが見当たらず、軽く浦島太郎気分を味わってしまったのだ。
小心者の私はお店の人に聞くこともできずすごすごと退散してきたのだが、後で調べたら、現在の量販店系にはプラグのコーナーなどないのは普通らしい。
しかし、古い人間としてはやはり一応自分でプラグを外すこともできないなど不安に感じる。
プラグのサイズはエンジンによって異なり、他のもので代用はできない。サイズに合ったプラグレンチまたはプラグ用のソケットも少し古い人間には必携の工具だ。
ブースターケーブル
バッテリーが上がってしまった際に、他の車から電気を拝借してセルモーターを回すためにはブースターケーブルが必要だ。逆に困っている人を助けられることもある。
また、サブバッテリーとブースターケーブルがあれば、他の車のお世話にならなくとも自分で解決することができる。実際に私はこのどれも経験がある。
とにかくブースターケーブルは持っておいた方が良い。
少し注意しなければならないのはどれも同じではないこと。
バッテリーの容量に見合わないケーブルでは危険なだけでなく、使い物にならないことがある点だ。持っておくなら、ケチらずに十分な容量のものを選ぶべきだ。
スコップ
車がスタックした場合もキャンプをしていているときもスコップが欲しくなることがある。
小さな折りたたみ式のスコップでもあるとないのとでは大違い。
山や海へ車旅をするなら小さな物でも持っておいた方が間違いない。
ハンマー
ハンマーはあまり車載工具のイメージがないが、タープやテントのペグを打つ際は、それ用の専用品でなくとも、普通のハンマーで十分役に立つ。
バッテリーは生きているのに空冷のワーゲンのセルモーターが回らなくなったときは、下に潜ってハンマーで適当に叩くと何故かセルが回るなんてこともあった。
マルチプライヤ・スイスアーミーナイフ
アウトドア用品にマルチプライヤと呼ばれる色々な機能の詰まった工具があるが、これの元となったのはスイスアーミーナイフで、中心的存在をナイフからプライヤに移して発展して行ったのがマルチプライヤではないかと思う。
こういうのは色々な機能があって便利そう(実際便利なこともある)だが、どの機能も決して使いやすいわけではなく、中途半端感は否めない。
悪い言い方をすれば、「欲張っても良いことはない」の見本のようでもある。
また、私にはどうしても納得の行かないことが一つある。それはプライヤとドライバーは同時に使いたいことが多いのに、一つの躯体の中に収まっていたら同時に使えない点だ。
などと言いながらも、男の子は何故かこういうものには惹かれてしまうもので、私も幾つか持っていて、車にも積んでいる。
そして実際にホームセンターで買った安物のハンマー付きは人力移動のキャンプでもテントのペグ打ちに便利で、薪作り、ロープやワイヤーのカットなど案外重宝している。
アーミーナイフも結局一番使うのはナイフとハサミで、最近は缶切りや栓抜きが必要なことも滅多にないため、他の機能を使う機会はあまり多くない。
ドライバーなどはあまり使う気がしないほど使いにくく、あまり多機能ではない物の方が良いと思いつつも、やはり念のためプラスドライバーの付いたものを選んでしまう自分を、中途半端な野郎だぜとちょっと情けなく思ったりもしてしまう。
お守りみたいな物と思って一つ二つ持っておくのは悪くないと思う。
工具についてはまだ言いたいこともあるし、肝心なのに案外忘れていることもありそうだけど、このまま続けるとエンドレスになりそうな気配もあるので、今回はこの辺で。
Have a nice car trip!