軽自動車とインフレータブルSUPの相性は抜群!その魅力について語る

軽車中泊仕様車とインフレータブルSUPの相性は抜群!その魅力について語る



私はカヤックやSUPなど、パドルスポーツに関わる仕事をかれこれ四半世紀以上続けていているのだけど、それが一番の趣味でもある。

そして、私が車中泊をする主な理由も、SUPやカヤックで旅をするときのベースとしたり、サーフトリップをするためだ。

これまでも常々「軽車中泊仕様車とインフレータブルSUPは相性が良い」と思っていたので、今回はそんな話題を中心に書いていきたいと思う。

SUPとは

湖でサップをする様子

まず、SUPについての知識がない人のためにざっと説明すると、SUPは「Stand Up Paddle」の頭文字を繋げたもので、要するに立ってパドリングすること、そしてその乗り物がスタンドアップパドルボードということになる。サップともエスユーピーとも読むが、日本ではサップと読む方が一般的だ。

SUPは、実は歴史は結構古いのだが、現在のように広まったのは今世紀に入ってからのことで、この10年位の間に急速に広まったスポーツだ。あまりメジャーではなかったSUPが表舞台に現れたキッカケは、とんでもなく巨大な波に乗るカリスマ的サーファー達が体幹トレーニングに使い始めたことだ。

サーフィン

元々は波乗り(SUPサーフィン)をするためのものだったのだが、波に乗らずにパドリングしているだけでも楽しくて便利なことに気付いた人達の目にとまり、カヌーやカヤックのように水上をツーリングするための乗り物として使われるようになった。

さらに、体幹が鍛えられる質の良い運動でもあるため、エクササイズ的に使われたり、川下りやリバーサーフィン(波立つところで流れに逆らい波に乗る遊び)にも使われ、現在はレースなども盛んに行われるまで大きく広がった。

そして、SUPは「水の上に立ち、歩くように移動する」という人類が夢見てきたことを、案外シンプルな方法で実現してしまった道具でもあるのだ。

sup

ところで、海があったとしてもサーフィンのできる場所(適した波の立つところ)というのは実は非常に限られ、例えばアメリカ合衆国なんてのは内陸部の方が断然広くて、アメリカ全体から見たらサーフィンができる場所なんて僅かでしかない。

それに比べSUPは、水さえあれば条件に応じて様々な楽しみ方ができる。そして、カヤックやウィンドサーフィンより軽くて道具の準備や撤収に手間がかからない。これらがSUPが急速に広がった大きな理由と言えるだろう。

SUPのボード

初期のSUPのボードは巨大なサーフボードのような感じだったが、こうして色々な使われ方がされるようになり、ボードも用途に応じて進化している。

上の画像は奥から、
・オーソドックスな形のオールラウンドタイプのボード:長さ10’6”(10フィート6インチ)
・荷物を沢山積むことのできる長距離ツーリング用ボード:長さ13’2”
・レースボード:14’0”
・サーフィン用のボード:9’0”

サーフィン用の短いものは7ft以下のものもあるので、長さは2m程度からおよそ4.3mかそれ以上のものまでと幅がある。

ボードの材質はサーフボードと同様に昔は木で作られていた。現在の製法や材質は色々あるが、発泡スチロールなどの芯材をファイバーグラスやカーボンなどで覆い、樹脂で固めた物が主流だ。

そしてこの10年位の間に急速に進化し、発展しているのが今回の主役のインフレータブルボードだ。

インフレータブルSUPとは

インフレータブルSUPボード

インフレータブルSUPとは、専用の高圧ポンプで空気を入れて膨らませるSUPのボードのことだ。上の画像にあるのは全てインフレータブルのボード。

ボードのサイズや人にもよるが、大体10分間位ポンピングすればボードが完成する。このポンピングも良い準備運動となるが、これが辛い人は車やポータブル電源があれば電動ポンプに任せることもできる。

Ride+pump

「空気を入れるだけで本当に人が立てるようなボードになるの?フニャフニャしないの?」といった疑問を抱く人も多いのではないかと思う。

初期の頃は適当にそれらしい形に作ったような物や、何だかブヨブヨして頼りなげな物も存在した(現在もなくはないが)。しかし、少なくとも現在の一流品は全くそんな心配は無用だ。

インフレータブルボードもオールラウンドボード、長距離ツーリングボード、レースボード、リバー用、サーフィン用、ヨガ用など明確に分類されるまでに至り、エクスペディションに使用されるボードがあったり、リバーSUPの世界では割れにくいインフレータブルボードの方が主流になっているほどだ。

ボードの中

出典:RED PADDLE CO https://redpaddleco.com

エアマットのような物でなくて、しっかりとした平らな「ボード」が出来上がる仕組みは、中身が上の画像のようになっているからだ。ドロップステッチと呼ばれる技術で、中で無数の糸が上下を繋いでいる。この技術によって高圧に耐え平らで硬いボードが出来上がるようになっている。

価格には結構開きがあり、いわゆる安物も一流品も存在する。どちらも基本構造がドロップステッチであることは変わりなく、外見では違いがわかりにくいかもしれない(わかる人が見ればすぐにわかる部分も多々あるが)が、ドロップステッチの密度、生地やその他のパーツの材質、補強方法、接着方法や接着剤の質などが大きく異なり、それらはもちろん価格の違いにも影響するが、強度や出来上がりの精度、耐久性や安全性にも大きく影響している。

一見似て見えても、ハッキリ言って安物は安物でしかない。耐久性もボードとしての性能も大きく異なるものだ。

インフレータブルボード詰め込み

また、インフレータブルボードは歴史が浅く、まだまだ発展の余地があり、年々進化している状況にある。歴史が浅いがゆえ、耐久性など分からない面もまだ多く、名の通ったブランドの製品でも耐久性の高くない物も存在した。

しかし、現在メーカーによる耐久性や性能の違いは顕著に現れ始めている。安物買いの……とならないように、信頼のおける製品を選ぶ方が賢い選択であることは間違いないと思う。

軽自動車とインフレータブルSUP

バモス1

たたむことのできないボードは、車内に入らなければ屋根に積むことになるが、届出などなしに積載物等が車の前後方向にはみ出して良い(横幅がはみ出るのは一切禁止)長さは、車の全長の10%までと道路交通法で決められている。

しかし、これは「車の長さの1.1倍の物を積んで良い」の意味ではないので注意が必要だ。例えば全長4mの車が長さ3.5mの物を後ろに50cmはみ出して積んだら違法となってしまう。あまり一般的には聞かない話かもしれないが、私の周りには実際にこの長さオーバーで捕まった知人が何人かいるので、油断してはいけない。

そして、軽自動車の全長は3.4m以下と決まっている。よって、規格いっぱいの長さの軽自動車の屋根に積むことのできる物は最長で3.73m(実際には全長3.395mの車が多いのでこの数字)となる。

ツーリングボードに多い12’6”のボードは既にアウト、11’1”なんて長さのボードは聞いたことがないので、上手く積んでも軽自動車の屋根に積めるボードは11ftまでとなる。

しかし、キャリアの付けられる位置などを考えると積む位置が後ろ寄りになってしまう車も多いから、実際には11ftのボードも合法的に屋根に積むことのできない軽自動車は多いのではと思う。

しかし、車の大きさに合わせてボードを選ぶのはナンセンスだ。用途や目的に合った長さのボードを選ばなければ意味がない。そんな軽自動車ドライバーと親和性が高いのがインフレータブルボードだ。

バモスとボード

たたんでしまえば14ftのレースボードだって全く問題なく軽自動車に積むことができてしまう。

車中泊をして本格的に長距離のSUPツーリングを楽しみたいなら、長いツーリング用ボードが必要であるし、インフレータブルのレースボードなら、軽自動車でも高速道路を使って遠隔地のレースにも参戦できる。

バモスにインフレータブルボードを1本積んだ様子

上の画像はバモスにインフレータブルボードを1本だけ積んだところ。

ボードの長さに関わらず、1人乗り用ボードのほとんどのバッグの大きさはこれとほぼ同じ程度のサイズだ。後部座席を出した状態でも縦に収まってしまうから、4人乗車して4本のボードと4人分の荷物も十分積めそうだ。

ワゴンRにインフレータブルボードを積んだ様子

こちらは以前車検の代車で借りたワゴンRに積んでみた様子。実際にこうして使ったわけではないが、ワゴンRも結構広いなあと思って、試しに積んで撮っておいた写真だ。

バモスに詰め込み

これはバモスにインフレータブルボード1本の他に必要な道具や着替え、キャンプ道具など一式積み込んだ様子。

ご覧の通りこれだけ積んでも寝床のスペースは侵害されていない。

バモス 詰め込み2

バモスで四国まで行き(出発地は房総半島南部)、道の駅泊をしている時の様子。

この時は仕事の旅だったので、屋根にたたんだボード1本と車内に3本積んで行ったのだが、それでも車内は片付けなしで無理なく寝られるスペースは確保できていて、快適で非常に経済的な旅だった。

「軽自動車でも積める」だけが利点じゃない

インフレータブルボードを持って歩く

インフレータブルボードは専用の収納バッグに入れれば、背負ったり、ホイールのついたバッグならコロコロ引っ張って運ぶこともできる。

この収納バッグにはボードやパドル(3分割のパドルならこの中に入ってしまう)以外の荷物も入れる余裕がある。

そして、最新の最もコンパクトになるタイプなら、下の画像の大きさになってしまうのだが、この中に入っているのは長さが11ftある立派なツーリングボードだ。

パドル収納

出典:RED PADDLE CO

インフレータブルボードは車を使わなくても、電車やバスや飛行機で持ち運べるということでもあるのだが、たたんで陸上を移動できるということは、漕ぎ出した場所へは戻らないワンウェイツーリングができるということでもある。

同じところを漕いで戻るより倍の距離を進むことができるのだ。これはインフレータブルボードやフォールディングカヤックなど「たたんで運べる乗り物」ではなくてはできないことだ。

インフレータブルボードを電車で運ぶ

そして、車旅だったら、例えば「鉄道の駅が近くにある海岸に車を駐車してそこをベースにし、そこから漕ぎ出したら漕いで同じところへ戻るのではなく、別の駅の近くに上陸し、ボードはたたんで鉄道(電車でなく敢えて鉄道と書いている理由は、地方には電化されていない路線も多いから)で車のあるベースへ戻る」なんてことができる。

日本は海岸線に沿って鉄道が敷かれているところが多いからこれがやりやすい。そして、地方へ行けば海岸には真夏の海水浴シーズン以外であれば無料で駐車できて、車中泊も問題ないような駐車場を結構見つけられる。

先程の方法(インフレータブルボード+鉄道)で1日パドリングを楽しんで、ベースの愛車のところへ戻ったらその晩はそこで車中泊し、翌日はまた別の良さそうなところへベースを移動し、また同じようなことを繰り返す。なんて遊び方は「車+インフレータブルボード」でなければできない遊び方だ。楽しいだけでなく、非常に効率の良い遊び方でもある。

これは大きな車でももちろん良いのだが、コンパクトにたためるインフレータブルボードとコンパクトで身軽な軽自動車との組み合わせは、合理的であるだけではなく、このミニマム感というか、何か言葉で説明しにくいけど、何ともワクワクさせられるような気持ちが一層高められるような気もする。遊びなのだから、なんかこういった気持ち的な部分も重要なのではないかと思う。

SUPを始めるに当たり注意してもらいたいこと

海岸 サップ

SUPやカヤックは船舶として認められていないため、免許や資格などが特に必要なわけではなく、車に車検があるように船舶には船検があるが、そんなものもない。とても自由だ。

それは大変良いことでもあるのだが、責任の所在が不明(船舶免許や船検のように管轄する公的機関がない)なものに対しては、良い言い方をすれば寛容で、逆に言えば放ったらかし状態になってしまうのが日本の行政の在り方だ。法律や規則で守られていないことにもなる。安全のための装備の義務づけもないが、逆に船舶用無線機などは安全のためと思っても違法となり使用することができない。

製造や販売する側も、例えば食品衛生法のようなものがあるわけではないから、何も知識も経験もない人が製造や販売しても違法とはならない。流行れば全く無責任にネット通販や巨大ホームセンターのようなところに物が並ぶようなことにもなる。何から何まで曖昧な自己責任とモラルに委ねられている状態だ。

SUPは色々な意味で比較的手軽に始めらそうなイメージがある。固く考えすぎずにトライしてもらうのは良いことでもあるのだが、海も湖も川も誰かが安全を確保してくれるアミューズメントパークではない。

「地球や自然に優しい」なんて、ヒトの方が上に立っていると勘違いしたような言葉を使う人は多いが、地球も自然もヒトに対して全然優しくなんてない。ヒトよりずっと強くて、ヒトに容赦無く手厳しい仕打ちをしてくるのが「地球と自然」であり、ヒトは15cmの水深でも水死してしまうことがあるのが現実だ。

また近頃は「Google検索よりハッシュタグ」のように、素人の言うことの方が信憑性があって正しいと思い込むような風潮もあるようだが、映えの写真を撮るために外で飯を作って食べるキャンプ(それを否定する意味ではない)ならいざ知らず、アウトドアにそれは当てはまらない。ちゃんとアドバイスやレクチャーのできるプロの言うことに耳を傾けそういった店で道具は入手していただきたい

これは、自分がこうした仕事に関わっているから言うのではなくて、海にいることが多いと本当に危なっかしいと思う場面や人に遭遇する機会が多々あり、実際にこれまで何人もの無茶をする人や、無謀な人達を海上で助けた経験もあるから言っているのだ。

サップをする男性

最後に少し厳しいことを書いてしまったが、安全第一。

そして、「軽車中泊仕様車+インフレータブルSUP」はベストなマッチングだ。

「車中泊をする目的がSUPのため」の人が増えてくれたらと思う。