車中泊とウォータースポーツを安全に楽しむ方法

プロが警告!車中泊とウォータースポーツを安全に楽しむ方法




「資格も要らず手軽そうに思える」が危険な理由


資格(免許)が必要なウォータースポーツ


例えば、何の基盤もなしにいきなり全く未経験の人だけでヨットに乗ろうとすることなど多分ないと思うし、大抵の人はそれがいかに無謀なことか容易に想像がつくのではないかと思う。

また、動力船を操縦したければ免許が必要なため、完全ではないが、安全面と技術面で最低限必要な基礎知識や基礎技術は必然的に身につく(でなければ免許の取得ができない)ことになる。

スクーバダイビングに免許は要らないが、いくつかある団体の「ライセンス」のいずれかを取得しなければ事実上プレジャーダイビングを楽しむことが、日本ではほぼ不可能なため、自ずとダイビングスクールなどの門戸を叩くことになる。

因みに国家資格の「潜水士」の免許を持っていても、プレジャーダイビング用のボンベを借りることはできない。

このように、ちょっとハードルが高そうにも思えるウォータースポーツ(マリンスポーツ)は、ほぼ確実に専門家からの教えを乞うことになり、完璧とは言わないまでも、それが安全性にも繋がっている。

資格(免許)が不要なウォータースポーツ


また、サーフィンを楽しむために資格は必要ないが、全く予備知識もなしに始めると物理的に非常に危険なだけでなく、ルールも知らずに水面をうろうろしていると、場合によっては他のサーファーによって海から追い出されるような仕打ちを受けることもある。

資格は必要ないが、自分の技量を見極めることができて、ルールやマナーを知らなければ続けることの困難な、ちょっと変わった一面もあるスポーツだ。

サーフィンを全く単独で始める人も少なくはないが、ショップやスクールなどを訪れるか、十分な経験のある先輩から教わるなどして始める人が多く、長続きしている人はそういった手筈を踏んでいることが多い。

一方、釣りもスキンダイビングもカヤックもSUPも資格は要らない(場所によって必要な釣りの鑑札などは別として)し、今では専門店に行かなくとも、通販やホームセンターなどで道具を入手することもできる。

自由だからどこまでも行ける


カヤック・サップ 安全 ウォータースポーツ

ツーリングに出る際は必ず浮力補助具を着用しよう



また、例えば2級小型船舶操縦士の免許を持っていても航行できる海域はかなり限定されるが、免許などの必要のないカヤックやSUPには逆に規制がない(立ち入って行けない海域や湖沼などはある)ため、無人島へ向けてであろうと、それが可能か否かは別として、日本からハワイまでであろうと、どこまでも漕いで行って構わないことになる。

実際、大西洋を横断した人や北米西海岸からハワイまでカヤックで渡ったような人もいる。

こういった自由さがカヤックやSUPの大きな魅力でもあり、資格などが必要になってがんじがらめになどされたら冗談じゃないとも思うのだが、裏返せばその自由さに大きな危険が潜んでいる

道具が入手しやすくハードルが低い


そして、道具が比較的入手しやすい価格帯からある(ピンキリだが)こともハードルを低くしている。

「道具を入手することができる」と書いたが、それは「入手できてしまう」ということでもあり、基礎知識や基礎技術もなしに大海原や流れのある川、水温の低い湖などに出られてしまうということにも繋がる。

特に近年普及の進んでいるSUPは、カヤックよりさらに色々な意味でハードルが低そうと勘違いされやすい

浮力補助具や道具をきちんと使えていない


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夏になるとPFD(パーソナル フローテーション デバイス)などの浮力補助具も着用せず、パドル(パドルとオールは全く別の道具)のブレード面を裏表逆に持って、言い方は悪いが、いかにも通販などで買った安物と思われるボードを海面に浮かべている人が、年を追うごとに増えているように感じるし、正確な数字などは知らないが、事故の件数も増えているように思う。

事故件数が増える理由は、普及が進んで人口が増えたことで相対的に増えるということもあるが、年中海にいる身としては、こうした光景を見ると事故件数が増えるのも当たり前と、大変残念な気持ちになる。

違うことのために使用する


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また、シットオントップカヤック(元来のカヤックのように入り込むコックピットがあるのではなく、オープンコックピットになっているカヤックの一種)やSUPを釣りのために使用する人も増えている。

カヤックから始めるのではなく、釣りから入った人などはシーカヤックの基礎中の基礎のようなことを知らないのか、例えば波打ち際で船体を横に向けてしまうなど、見ている赤の他人のこっちが本当にヒヤヒヤするような光景を目の当たりにすることも少なくない。

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また、シットオントップカヤックやSUPはコックピットのあるカヤックより、シュノーケリングなどをすることの目的が多く、水中に入った際や、落水した際にも再乗艇がしやすいことが大きな利点の一つともなっているが、これに再乗艇ができなくて遭難騒ぎを起こすような例も実際に発生している。

その主な理由が、「再乗艇の練習をしたことがない」「釣りの道具などが多すぎて艇を表に戻すことができない」「安全のために着用しているPFDが邪魔になって再乗艇ができない(胸ポケットに釣り道具などがいっぱい詰まっているような状態が特にそうなりやすい)」などだ。

足のつかないところでも確実に再乗艇ができるように練習しておくことは最低限の必須事項だが、PFDが邪魔になって再乗艇ができないのなら乗艇する間だけ一旦脱いでみることは思いつかないのかなど、不思議に思うこともある。

手軽なことが逆に危険を招く原因となってしまう理由とはここに挙げたようなことだ。

事故や危険な目に遭わずに楽しむためには


では事故を起こしたり、危険な目に遭ったり、他人に迷惑などかけないように楽しむためにはどうしたら良いのか?答えは明白だ。

私は自分の好きなSUPやカヤックを多くの人に楽しんでいただきたいと思うし、それを促進しなければならないような立場でもある。

しかし、厳しく聞こえ、意地悪と思われてしまうかもしれないが、それも覚悟で敢えて言ってしまうと、ここまで読んでどうしたら良いのか自分で答えを導き出せない人は、まだ手を出さないでおいた方が良いと思う。

などと言うと、本当に厳しくて意地悪と思われるかもしれないが、「自然に優しい」などと生ぬるいことなど言っていられないほど自然はヒトに対して厳しくて意地悪なのだ。

最低限必要な技術や知識:気象


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カヤックやSUPは、速く漕げることが絶対などとは言わないが、効率良く漕げる正しいパドリング技術やレスキューの技術(セルフレスキューも人を助ける技術も)を身につけておくことは大切で、その上で、どの程度のスピードで漕ぐことができて、どの程度の距離やどの程度までの状況までなら大丈夫かのような自分の技量を知っておくことはもっと大切だ。

しかし、さらにそれ以上に大切とも言えるのが、気象に関する知識と応用力だ。

技術を身につける前に気象に関する知識があれば、自分ができることや、やってはいけないことの多くがわかるようになる。

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海でも山でも自分の力でアウトドアスポーツを楽しみたいのであれば、天気予報を注視し、読み解く力が必要だ。

ここでいう天気予報とは、空が晴れるか雨や雪が降るのかなどの予測だけのことではなく、第一に風の強さや風向を知ることが重要で、読み解く力とはそれによってどのような状況になり、状況がどのように変化するかを予測したり、判断したりすること、そして、どういった気圧配置なら概ねどんな状況になるかを予測できることなどだ。

海で遊ぶ前に風と波について少し知っておこう


特に海上では同じ風速や強さの風でも、吹く向きによって状況が大きく異なる

海でカヤックやSUPに乗りたいのであれば、最低でも風向きによってその場その場の海況がどうなるかを知っておく必要がある。

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気象により変わる波の種類


また、波の種類や性質を理解しておくことも重要だ。

例えば普通のテレビなどの天気予報で波高が50cmから1mと予報が出ていたとしたら、大きくても大人の腰程度の高さの波ということになるので、大したことがないと思う人も多いと思う。

それが沖から吹く弱い風によってできた風浪であれば、実際ちょっと海面がざわついている程度なこともある。

しかし、それがかなり遠くにある台風からもたらされる波長の長いうねりで、風が陸から沖に向かって吹いている場合は、海面が滑らかで、波と波の間隔も長いことが多いため、一見非常に穏やかに見えることがある。

しかし、ひとたびその波長の長いうねりが水深の浅いところに到達すると、50cmから1mの高さの波は、大人の背を超えるような高さになって凄い力で崩れる(その理屈は、わかりやすいようにと簡略化して説明すると要らぬ誤解を招くこともあるので省略するが、できれば本を読んで理解しておいていただきたい)こともある。

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運悪くその瞬間に当たってしまうと非常に危険だが、引き波も強く、沖に引っ張られてしまうようなことも起こりやすい。

これがいわゆる土用波と呼ばれるやつの正体なのだが、「お盆を過ぎたら土用波が立つ」のような単純なことではなく、台風や低気圧の強さ、位置、進む向きなどによって条件は全く変わり、どの時期だからこういう現象が起きるということではなく、例えば5月にこういったことが起こることもある

熱心なサーファーはこういった波を期待して常に天気予報を注視しているのだが、海での事故のニュースなどを聞くと、沿岸で釣りをする人も海水浴をする人も含め、海岸に近寄る際にはサーファーとは逆の意味でこういったことにもっと注意してもらいたいと思うことがある。

また、海水浴なら空いているからと海水浴区域外で遊ぶのではなく、ライフセイバーのいる海水浴区域内でライフセイバーのいる時間帯に遊び、釣りやカヤックやSUPを楽しみたいなら、最低でもこのような海の基礎知識(これはほんの一部でしかなく、必要な知識はもっと色々あるが)は身につけてから楽しんでいただきたいと思う。

川や湖でも気象の知識は必要


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川では流れ自体が危険なこともあるが、事故で多い原因の一つに、現在いる場所の天気が良いからと安心していると、上流域で大雨が降るなどして起こる急な増水がある。

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河原で車中泊していて車ごと流されてしまうようなことも起こり得る。

完全ではないが、これは広範囲の天気予報を注視していれば予防もしやすいことだ。

また、海や流れのある川より安全と思われがちな湖は海水より浮力が低くて沈みやすい(PFDなどの浮力体の着用は必須)といった危険性もあるが、水温が非常に低いことも多く、注意してもらいたいと思うのが落水した際に起こる低体温症だ。

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案外低体温症は発症しやすいことで、泳ぎが達者な人でも体が動かなくなって溺れてしまうことがある。

安易に考えず、水温が低い場所ではウェットスーツやドライススーツを着用することも重要だ。

気象を把握するためにスマホアプリを活用しよう


近年天気予報の精度は高くなり、民間会社の予報は更新回数も増え、ピンポイント予報や風向風速、波やうねりの高さや向きなど、かなり細かなことまで知らせてくれる非常に便利なスマホ用アプリなども増えている。

今となっては私もこういったアプリを手放せなくなっているが、こういったものを大いに活用していただきたいと思う。

そして、こうして何かのきっかけで気象に興味を持つようになると、大雨や強風や大雪などで身動きがとれなくなってしまうことを防ぐことにも役立つようになるなど、クルマ旅に応用できることは多い。

気象に関する知識は重要だ。

アウトドアスポーツの知識や経験は色々なことに役に立つ


冒頭で述べた通り、本稿はクルマ旅や車中泊には直接関係のないような話が多くなってしまった。

しかし、ウォータースポーツも含め、アウトドアスポーツの経験や知識はクルマ旅や災害時など色々な場面で役に立つことが多く、車中泊の経験や知識自体も災害時に役に立つ。

アウトドアスポーツに関しての正しい知識や技術を身につけ、楽しく安全にアウトドアを満喫していただきたいと思う。

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