タイダウンベルトの安全な使い方とコツなど〜後編〜
前回はキャリアの話だけでは不十分ということで、身近でありながら安全に大きく関わるカムバックル式のタイダウンベルトの使い方についての話を始めたが、キャリアバーのある車での積載方法の話で終わっていた。
今回はその後編で、車の屋根に荷物を直積みする方法や、屋根に荷物を積む上での総括的な注意点などについて解説したいと思う。
屋根に荷物を直積みする場合
キャリアバーがなくても屋根に荷物を直積みすることはできる。
ルーフレールがある車なら、両サイドのルーフレールを使って、キャリアバーを使った時と同じ要領でベルトを掛けるだけだ。
上の画像はルーフレールではないが、ルーフレールの使い方は基本的にこれと同じ要領だ。余ったベルトの処理もキャリアバーを使った場合と同様。
この画像ではキャリアもルーフレールもないレンタカーの屋根にSUPのボードを直積みしている。
どうやって積載物のボードを屋根に括り付けたかと言うと、積んだボードを屋根ごとぐるっと一巻きするように車内を通して、ベルトを一周させて屋根に縛り付けた。
2ドア(3ドア)の車では、基本的に無理(窓を利用すればできる可能性がなくもないが)な方法で、スライドドアの場合もできないこともないが、構造上ベルトを通す位置とドアの開け閉めに工夫が必要になる。
今回のは普通のタイダウンベルトを使ったときの方法だが、携帯用のサーフボードキャリアなどもあり、それはボードを締め付けるバックルと屋根に締め付けるバックルが別になっていたり、パッドも付いているなど少し凝った作りになっている。
だが、ベルトが車内を通って屋根をぐるっと巻いて固定する基本的な仕組みは同じだ。
余ったベルト処理の盗難対策でも「雨水がベルトを伝って車内に水が侵入してしまうことがある」と前回書いたが、ベルトが車内の天井を通っている場合はほぼ確実に雨水が伝わってきて、車内は雨漏りしているような状態になることは覚悟しておいた方が良い。
また、ルーフレールの有無に関わらず、他にもキャリアバーがある時とは異なる注意点がいくつかある。
第一に、ベルトの締め付けが緩ければ荷崩れしてしまうが、あまり強く締め付けると屋根が凹んでしまう場合もあるため、力加減により一層の注意が必要だ。
当然硬い物や尖った物を直接屋根に載せるのも御法度。パッドを敷いたり、柔らかい物を一番下に積むようにしなければならない。
上のレンタカーのハスラーでは3枚のSUPボードを積んで運んだのだが、敢えてインフレータブルボード(空気封入式)をたたんだ状態で車内に積まずに、膨らました状態でパッド代わりにハードボードの下に積んでいる。
話が若干逸れるが、ハスラーは屋根が長めで平らで使いやすかった。車の大小に関わりなく、屋根がヌルッと丸い車だとこうは行かないので、レンタカーを使用する際は車種選びも重要だ。
荷物を載せる位置は、キャリアバーがある場合は荷物の左右どちらかの端がキャリアバーの左右どちらかのベース(脚)の近くにくるように置いた方が良いということも前回書いたが、屋根に直積みする場合は、左右どちらかに寄せるより、なるべく屋根の中心に載せた方が荷崩れしにくい。
また、ボードなどを何枚か積み重ねたりすると、崩れてしまう可能性がある。
場合によっては別のベルトやロープで、重ねた荷物が崩れないようにまとめるなどの必要もある。
キャリアバーがある場合でも、荷物の形状や大きさによっては起こり得ることだが、キャリアバーが無い場合は特に、ベルトが弦のように張った部分ができてしまいやすい。
この弦が短ければ大したことはないのだが、弦が長くなるとちょっと問題が発生してしまう。
きれいにベルトがピンと張った状態で車を走らせると、ベルトがプロペラ機が飛んでいるような轟音を奏でることになるのだ。
それを解決するのがこの方法。
なるべくベルトは捻れていない方が良いと思われるかもしれないが、実はそうではない。
このように捻っておけば、ベルトが唸り声を上げることはなくなる。
また、このボードは一見したところボトム側が平らに見えるが、僅かに少しコンケーブ(凹んでいる)している。
ボードとベルトの間に数ミリあるかないかの隙間があるだけだが、こういった状態でも走ると凄い音を奏でることになる。
こういった部分ができてしまう物を固定する場合は、ベルトを捻るか、ベルトがボードに当たる部分全体にパッドを挟み込むなどの対処が必要だ。
総括的な注意点
昔ある著名人が、確かミニ カントリーマンの屋根にカナディアンカヌーを上向きに積んでおいていたら、夜中に大雨が降ってカヌーの中に大量の水が溜まってしまい、翌朝車が潰れてしまっていたという話を聞いた覚えがある。
本当か嘘か定かではないが、これは十分に起こり得る話だ。
少なくともドアが開かない程度までには車が歪むと思う。カナディアンカヌーのように開口部の大きいボートを積む場合は、必ずうつ伏せにして積まないと危険だ。
シーカヤックはコックピット前後に隔壁があるものが多く、そうであればボートの中全体に水が溜まってしまうことはないが、上向きにして積むのであれば必ずコックピットカバーを着けておくことが必須だ。
そして、走行中にコックピットカバーが外れて飛んで行かないように、必ずカバーの先端をカヤック本体に括り付けておくことも必要だ。
カヌーやサーフボードなどは、上から見たら木の葉のように前後が先細りしている形状になっている。
そのため、幅が最も広くなっている辺りにベルトを掛けるのではなく、広いところを挟んで前後2カ所にベルトを掛ければ、ボードが前後にずれることを防ぐことができる。
また、サーフボードはボトム側を上に向けて、フィンが付いていればボードの後ろが前になるように積むのが基本だ。
万一ベルトが緩んでしまったとしても、フィンがベルトに引っ掛かって走行中にボードが後ろに飛んで行く可能性を低くくする安全装置になるからだ。サーフボードに限らず、この理屈は応用したい。
梯子や真っ直ぐな材木のように、全体の太さや幅の変わらないものは、カヌーやサーフボードのように2本のベルトでキャリアバーに括り付けただけでは前後にずれてしまう危険性が高い。
梯子や脚立のようなものなら、上の画像のようにベルトの一カ所を梯子の段と段の間を通すことで、前後どちらかにずれても落下を防ぐことができる。
しかし、真っ直ぐな材木は安易に説明すると危険なため、素人が屋根に材木のようなのっぺりしていて真っ直ぐな物をキャリアバーにベルトで括りつることを私はすすめない。
そして、細かい物を積むためにはまとめる必要がある。
キャリアバーに固定するボックスもあるが、ターポリンでできた防水性の高い専用のバッグもあり、価格もボックスより何倍もリーズナブルで、屋根への直積みもしやすい。
しかし、日本では使っている人を見かけることはあまり多くない。
ルーフレールがある車には特に使いやすいのにもったいない。こんな物にももっと目を向けて良いのではないだろうか?
そして最後に、当然だが、使用する前にベルトやバックル自体に不具合はないか、傷んでいないか確認しておくことも重要だ。
ロープワークについて少しだけ触れおこう
ロープワークについては、それだけで十分一冊の本になってしまうので中途半端な解説は省こうと思う。実際数々の本も出版されている。
便利な道具もたくさんあるから、様々なロープワークをマスターする事が必須とまでは思わないが、「巻き結び」はロープワークの基本中の基本。
タイダウンベルトの最後の処理にもこれの応用が必要であるし、何も難しくないので、最低限これだけはマスターし、理屈を理解しておくべきだと思う。
そんなことを思いながら本棚を物色していたら「野外で役立つロープワーク入門(地球丸刊)」というタイトルの、買った覚えのない本が見つかった。
何故こんな本を持っているのかと思ってページをめくっていたら、自分が解説をしているページがあるからではないか。
なんと、その頃所有していたトヨタデリボーイも登場している!懐かしい!
話を戻して、これが基本の巻き結び。
他のロープワークに応用されることも多い基本中の基本だ。
屋根をもっと活用しよう
便利なタイダウンベルトを正しく上手に使い、屋根も荷物の置き場として活用すれば、車内はより広く快適になる。
車内に積みきれない荷物や入らない大きさの荷物を屋根に載せる事で、キャンピングカーを使った楽しみ方もさらに広がることとだろう。
ただ、安全面には十分な注意が必要である。
絶対に事故などを起こさないように、道具に頼るだけでなく、正しく使う技術や知識をしっかりと身につけ、安全第一を心がけて活用しよう。